電話越しの吹雪の荒い吐息がヒロトの妄想をかきたてる。むくむくとたくましくなってゆく妄想、これ以上なくヒロトは興奮していた。しかしそれでもヒロトの妄想力は現実の生身の吹雪には勝てなかった。

ヒロトの舌が通ったばしょ、爪でなぞられたかしょ、さわさわともどかしい感覚に襲われたばしょ、一つ一つを思い出すたびにヒロトの吐息、焦点のあわないうっとりと高揚とした表情、視姦するいやらしい目線、すっと息を吸い込むとくらりと、酔ってしまいそうになる汗のにおい。

電話をかけた時点ですでに、吹雪は張りつめた痛みに泣いてしまいそうなほど、勃起していた。


身体中が熱くて、ヒロトに見せられないほどヒロトを感じているんだと思うだけで情けないほどいやらしい気持ちでいっぱいになる。テレビ電話なんてものにしていたら、死んでしまうかもしれない……!!


ヒロトの指の動きを思い出しただけできゅぅっと切ない気持ちになる。きっとヒロトはそんな自分の事は知らない。ヒロトの指の動きを真似て敏感になった、勃起した乳首に触れるのを吹雪は躊躇した。ヒロトに会えない3ヶ月間、なんども自己処理を試みた。しかし、一度もまともにイクことはできなかった。ヒロトが欲しい、ヒロトに見つめられたい、ヒロトの声が聞きたい。日に日にましていくばかりの思い。練習にも身が入らずに、疲れた身体を休ませようにも夜にはヒロトにたいする欲求が増すばかりでとうてい眠りになどつけなかった。


こんなにも、自分の心と身体はヒロトを欲するようになっているなんて知らなかった。恥ずかしくて、もどかしくて、情けなくて、どうにもこうにも出来ない感情。自分で自分がコントロール出来ないほど、嘘だと素直になれない気持ちからわざとヒロトに自分からは連絡をとらなかった。そうすると、なぜかヒロトの方からも連絡は滅多にはいることはなく、吹雪は徐々に徐々に、苦しい状況に陥っていった。


結果、禁欲はすべて逆効果で今までにないほどにヒロトの存在に触れたいという凶悪な欲求が吹雪を埋め尽くして、とうとうそれが爆発してしまった。チームメイトが寝静まったであろう時間帯に、吹雪はいっぽんの国際電話をコールした。

もしもし、と第一声を聞いただけで失神してしまいそうなほど吹雪の感情は煮えたぎっていた。顔から火が出るほど恥ずかしいテレフォンセックスの誘い。恥を忍んだその誘いに、ヒロトからの返事がなくて、あぁ、終わってしまった。膝から崩れ落ちそうなほど吹雪は落胆した、これからはもう二度とヒロトに触れてもらうことは出来ない、絶望と悲しみすべての感情がナーバスなものへと導いていく。

ヒロトから了承の返事を聞き取って、興奮、落胆、嬉々といった感情のジェットコースターを味わった。恋は盲目だなんて、誰がいったんだろうか。ヒロトの声を聞いただけで、全身が震えあがる。


つつ、とシャツを捲って腹をなぞるだけで、びくびくと身体は痙攣した。


『……ぐすっ、ひっく…うぅ、やっぱり出来ない……っ』

「……吹雪くん!?」


ヒロトからの焦るような声。急に泣き出した自分に困惑しているようだった。


「…なにがあったの?言って…?」


ヒロトの方としては、恋人からの滅多にない誘いをおじゃんにしてしまう気はさらさらなかった。なんとしてでも、性行したい。ぴったりと腹にくっついてしまう程に勃起したペニス。絶対に逃しはしないと、ヒロトは強く思った。


『ぐすっ……あのね、っ…僕っ、ヒロトくんが、欲しいのっ…欲しくて、欲しくて……死んじゃいそうなくらいっ……ひっく、だからっ……』


ヒロトくんの声ききながら、乳首なんて触ったら僕っ身体へんになっちゃって、それだけでっイッちゃうかもしれない。気持ちよすぎて、死んじゃうかもしれないっ。会いたいよ……ヒロトくん。


恋人の涙の訴えに、ヒロトは胸を掻き毟りたくなるほどたぎらせた。と、同時にぐっと胸が締め付けられた。怖いくらいに素直に自分を求める恋人の悲痛な叫び。

ヒロトの方も、すぐにでもイッてしまいそうなほどギンギンにペニスを熱くさせていた。吹雪を思うだけで、切ない気持ちになるのはヒロトも同じだった。


「……吹雪くん、合宿中になんかい抜いたの。」

『…ずっ……、一回も……。ヒロトじゃなきゃっ、イケないよぉ……』


まさか、そう思って確認はしておこうと質問したが、それほどまでに恋人は自分を……!ペニスを握ろうと伸ばしていた手は口元を抑えるのに必死だった。こんなにも、恋人が自分を求めているだなんて、液晶越しの恋人は飄々とインタビューに答えていたのに、こんなにも弱々しく自分を求めているだなんて。沸き上がってくる愛しさと、自分が恋人の頭を占めている、こんなにも悩ませていただなんて……独占欲と優越感がヒロトをますます強く高揚とさせる。手元のコーヒーが冷めてしまうのなんて心底どいでもよかった。


会いたい、触れたい、見詰めたい。子供のようなわがままな感情。どこにも通用しない、自分勝手で大人気ない気持ち。押さえなければならないのに、吹雪の思いを聞いて抑えがきかなくなる、歯止めが出来ない。

心なしか、目尻が熱くなって感情が高ぶる。


「帰ってきたら、いっぱいいっぱいキスしよう。それで、ずっとずっと朝まで一緒にいよう…?」

『ヒロトくん……。うん、うん…っ。いっぱいいっぱいキスして、僕のこと触って?』

「うん、痛いっていっても、嫌だっていっても絶対に離してなんてあげないよ。」


どこからともなく、満たされていく感覚。あれほどお互いに求めあっていたのに、たった数分の会話で会えなかった3ヶ月が埋まるような気さえした。


「……とりあえず、抜いとこうか。そのままだと、つらいだろうし。」

「……うん。」


くすっと笑い声が電話越しに聞こえる。辛そうにすすり泣く声はもうそこにはなかった。


「一緒に、…イこう?」

『……うん。』


目の前に、隣に恋人はいないのに、なぜか暖かい。そんな不思議な感覚が二人を包んだ。























「おかえり。」

「ただいま。」

「それじゃあ、さっそく続きしようか?」

「ちょっと、やだっ。離してよ。」


帰ってきた恋人は、いつも通りの意地っ張りでした。


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