3ヶ月、吹雪と行為にいたったのはもう3ヶ月も前の話だった。3ヶ月まえ以来、一度も二人でセックスしていない。それというのも、3ヶ月まえから吹雪の所属チームが遠征を開始してしまったからである。まだまだ若いヒロトとしては、若さからくる欲求をはやく恋人と満たしたいという気持ちで一杯であった。近頃では、欲求がいきすぎて液晶越しに美人アナウンサーにインタビューを受ける吹雪に、美人アナウンサーそっちのけで勃起してしまうほどの勢いであった。


もちろん、処理など自分で当然のごとくできる。しかし、恋人がいるにもかかわらず一人で処理を行わなければならない虚しさがヒロトを襲う。もちろん、恋人の方だって遠く離れた地で一人で処理しているに違いはないのだが、それでもヒロトは辛抱しきれなかった。かといって、電話をしたところで素直でない恋人が自分の誘いにのるはずはない、きっと冷たくあしらって電話を切るのだ。国際電話でブチ切られるなんて虚しすぎる。そんな考えもあってか、ヒロトは吹雪には極力連絡をとらないよう心がけていた。


ピピピ…


突然の着信音。


「もしもし?」

『……もしもし、ヒロトくん?』

「吹雪くん、どうしたの?今の時間じゃそっちは…」

『……うん、こっちは夜中かな。』


息がつまりそうだ。湯気のたつ手元のコーヒーをみつけてヒロトは思った。液晶越しでも勃起してしまいそうな恋人の声を今、全国の公共電波でファン全員が求める恋人の声を、耳に当てられた携帯電話が、耳が、自分が独占している。独占インタビューよりもずっとずっと価値のある、誰も知らない恋人のプライベートな声。


盗聴でもされない限り、自分が独占している。それだけで、ヒロトは身体がひしひしと痺れだす感覚に溺れてしまいそうだった。


『………あの、ね。お願いがあって…。』

「お願い?」


夜中だからだろうか、息を潜めるような小さな声で電話越しに話す恋人。


「なんでも、聞くよ。」


自分も同調するように、小さな声で呟くように返す。


『………っ、』


電話越しに、息をのんだ音がした。恋人からのお願いとはなにか、ヒロトは海の向こうにいる吹雪を思いながら、考える。朝まで、こうしていたいだとかそういう類いだろうか。そんな、甘い展開を期待して。

さすがに、3ヶ月もあっていないのだからそのくらいの事はいくら意地っ張りな恋人でも感じてくれているだろう、そう信じて。


『…………、このままでいいから…えっちシよ?…』


消え入りそうな音声、その刹那、ヒロトは吹雪がなにを言ったのかわからなかった。音声の小ささのせいではない、自分の耳を疑った。恋人に会えない欲求不満がとうとう幻聴までもおよんでしまったのか、とそう思ったからだ。


それはつまり、テレフォンセックスの誘いなのだろうか?聞き間違いでないと理解してヒロトはみるみる自身の顔、耳に熱が溜まっていくのを感じて顔を片手で覆うのだった。


『……、』

「……、」


お互いの間に沈黙がながれて、それでもなかなかない恋人からの誘いに断ることなどもっての他だと考えて、それじゃあ…と恋人に指示を伝えるのだった。


「今、吹雪くんどんな格好してるかな?居場所も教えてほしいな、できるだけ詳しく。」

『……うん、今はホテルのベッドの中でね、したはハーフパンツ履いてて、うえはTシャツ。あと、両隣の部屋には、チームメイトが一人ずついるよ…。』


子供に言い聞かせるように、ゆっくりとした少し低いトーンで吹雪に状況報告を促す。それに答えるように、甘えるように吹雪もヒロトに子供が愛情を求めるような甘えたトーンで少しばかりたどたどしく、ヒロトにできるだけ事細かに状況を説明する。


どちらともなく、日常から欠落した雰囲気を互いに醸し出している。一度スイッチが入ってしまえば、普段常識をわきまえるヒロトもさんさんと室内を照らす日光など目に入らない、もしくは気にならなかった。非常識な感覚に浸っていく、片足ずつはまっていく。そんな感覚が、ヒロトの恋人にたいする思いでますますヒロト自身を日常、常識、道徳から引き離していく。


「じゃあ、とりあえずベッド腰かけてくれる?」

『………、わかった。』


しゅるり、しゅるりシーツと吹雪の掠れる音。それだけで、耳を犯されてしまった気分になる。


「できた…?」

『……うん。』

「じゃあ、シャツ捲って。自分の指を俺の指だと思ってみて…。それで、俺がしてるみたいにしてみて、出来るよね…?」


電話越しに聞こえた吹雪が生唾をのみ込む音。生唾をのみ込む行為というのは、意を決したときなどによくやる行為で、言うなればこれといって卑猥な行為ではまるでない、しかしヒロトには電話越しの生唾をのみ込む音をなによりもいやらしい音に聞こえるのだった。今、どんな顔して俺を思い出してるんだろうか。わき腹とか、乳首とかが弱いけれどそこをどんな風に触れるんだろうか。


電話越しの吹雪の荒い吐息がヒロトの妄想をかきたてる。むくむくとたくましくなってゆく妄想、これ以上なくヒロトは興奮していた。しかしそれでもヒロトの妄想力は現実の生身の吹雪には勝てなかった。


『……ふっ、…はぁ、っ……ん゙っ』


じっとりと滲みだされるような吹雪の声に、ずくんっとした腹あたりが重くなる。白昼、ヒロトはあいた右のてを明らかにそそり起ったそこにそえるのだった。





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