しとしと響く雨の音。水をはったコンクリートに落ちた水は水面で跳ね返されて散る。

ジーンズとスニーカーは、雨のせいでぐしゃぐしゃのどろどろで、汚ならしいばかりである。上にきたTシャツだって、ぐっしょり濡れてしまって身体にはりついて気持ちが悪い。どうにかしたい、そう思いながら狐の嫁入りなんていう、晴れているのに雨が降る、どうにも複雑な気象状況のなか吹雪はただひたすらに雨の中を走るのだった。


やっとの思いで雨宿りをしようと駆け込んだのは、コインランドリーだった。平日の昼下がり、誰もいない仄暗い空のした誰もいないコインランドリーで一人雨がやむのを待っていた。

しかし、暇だ。する事も特にないし携帯も充電が切れてしまっていて弄りようがない。


「服、洗おうかな。」


コインランドリー内にならぶたくさんの洗濯機を眺めなから独り言を呟く。


ウィーン──…


コインランドリーの扉を開く音。誰がやってきた。独り言を聞かれていたら恥ずかしいな、そんな気持ちで窓のガラス張りの外をぼんやり眺めていた。人通りの少ないここに、人がいる。見知らぬ人との二人だけの空間。そとには人も、車も通っていない。おかしな気持ちがぼんやりとする。


そうだった、自分はびしょ濡れの服を脱いで洗おうと今の今までしていたのに、思い出してせかせかと肌に張りつくTシャツを脱ぎはらおうとする。

まて、後ろの人が女性ならば危ないのでないか。ワイセツだとかなんとか言われてしまったらどうしようか。そう考えて、ちらり後ろを振り返る。


ぱち、


「あ……、どうも。」

「どうも。」


振り向いた先にいたのは、眼鏡をかけた青年だった。良かった、女の人じゃない。目があってはっとしたがそれはまぁ、いいだろう。早く脱いでしまおう。


そうして、裾を掴んでいたTシャツを捲りあげたその時、なんだか視線を背中に感じて。


「あ、あの…」

「…………、なんでしょう?」

「僕の背中、何かついてます?」

「あ、いやきれいな背中してるなと思ってつい…。」


なんとも、コメントしにくい返答に吹雪は戸惑った。見知らぬ人に、背中を誉められた。いつかに知り合いの彼女が、身体についてコメントしてくる人間は危ないだとか、そうじゃないだとか話していた気もするのだけれども。これは所謂、公然わいせつとか、セクシャルハラスメントとかなのだろうか。


「あのっ、変な事言ってすみません。……なに言ってんだろ、俺。」

「あ、いや…」


変な事を言ってすみません、と謝罪する青年をよそに、普通なら青年の言うように気持ち悪がるはずなのにどうしてか、嫌な気持ちのしなかった自分に違和感を抱いた。


「……あの、僕ここで全部脱いじゃって良いですか?」


少々口をもごもごさせながら呟いた吹雪に青年が目を見開く。


「えっ、あの…」


既に上半身の衣類をすべて脱ぎはらった吹雪が、ジッパーを下ろしにかかる。それから、ジーンズのウエストに手をかけて脱ぎにかかる。


「……!」


驚いた青年が、吹雪にかけよる。


「ちょ、ちょっと待って。俺の洋服貸すからっ!」


切羽詰まった様子の青年が、ジーンズを下ろしにかかった吹雪の両手を掴む。驚いて、青年を見上げる吹雪。自分より、少しばかり背の高い青年の顔が目と鼻の先にある。碧玉のような青年と瞳と、黒縁の眼鏡のレンズ越しにぱちりと目があう。


それから、したを向いた青年の目はそこでぱっと顔をそむいて目を泳がせた。


「……、服着てください。」


口元を手で押さえてそっぽを向いたまま青年は、呟いた。


「え、でも…」

「いいからっ!」


そういって、再び吹雪と顔を合わせた青年は、ぱっと顔を赤く染めた。


じっとりと湿り気を帯びた吹雪の身体。握られた手首から伝わる青年の、かすかに上がる体温。


「………、あつい」


なにもお互いに言わないまま、さっきよりも強くなった雨音と互いの呼吸の音だけが響く。

呟いた吹雪の声に、青年が小さい息を一度だけ吐く。

握られた腕が、この時期特有の蒸し暑さとリンクしてじわじわ吹雪の体温をあげる。

呟いて、いつの間にか青年の端正な顔が影を吹雪の顔に影をつくるほどのキョリに。視線が絡んで、唇に生暖かい感覚。


「んっ、ふ……くちゅっ…ん、んっ…ふぁっ、」


気づいた時には、すでに青年の舌の心地を楽しむ自分。乾いた青年の手が、雨で湿った吹雪の突起をやんわりとなでる。時折できる唇ね隙間から小さな矯声が漏れる。

「はっ、」


長く響いたリップ音のあと、やっと解放された唇。キスの余韻に浸っている間にも、青年の唇はゆっくりと首筋、鎖骨と下がっていく。


「はっ、あぁ゙っ」


息ずいて、途端に矯声をならす喉。青年の唇が吸い付いたそこは、ピンクに、外気に触れながらぴんとキスの間なでまわされたせいで勃起した吹雪の小さな乳首。まるで、甘味のあるものでもなめるように舌をかよわせる青年。


「………ぁ、…んー、はひっ」


乳首に感じる、ほんのりと痺れる様な焦れったい感覚。触れなれていない方の乳首が、真っ白な吹雪の肌の上で触れてくれと言わんばかりにつん、と立ち上がっている。


じゅる、時折響く青年の唾液をすする音。それだけで吹雪の肩はびくりと震える。そんな吹雪をよそに、青年はすっと吹雪の肩にまわしていない方の手を使って寂しい乳首を弾いた。


「やぁ゙んっ!?」


そこからは、両乳首からの刺激に無遠慮にランドリー内で喘ぐ吹雪。押さえた手は所詮気休めで、隙間から簡単に喘ぎが漏れる。


青年にもっととねだっているかのように、つき出された吹雪の胸。乳首をひたすらに愛撫する青年は、もじもじと無意識に擦りあわせ始めた太ももに気付かない。


気づいてほしい、物足りない気持ち。だけど、こんな突然のことに物足りなさを感じるなんて、なんてはしたないんだろう。お願い、気付かないで。


喘ぐ吹雪の葛藤は、青年には届かない。急に、愛撫がやんでとろんとした吹雪の表情がどうしてと疑問でくもる。そんなことはお構いなしにと、ジーンズと下着を一気にずり下げる青年。


「あっ、」


立ち上がったペニスが下着に擦れて声を漏らす。


「もっと、気持ちよくしてあげるね?」


そう言うと、温かい何かに包まれるペニス。ちゅっと吸われたかと思うと、器用に皮を被ったそこを舌で剥かれる。敏感なそこを尖った舌で突つかれる。


「あっ、……うぅ、んぁっ…だめぇっ!あ、あっ、やだぁっ!……んっふぁっ…そこ、らめっ…あ、ぁんっ…そこっいやぁ゙っ!」


誰にも触れられたことのない敏感な皮を剥いだ、真っ赤な亀頭は吹雪の言葉に反してこれでもかというほどに、青年の口内へと我慢汁を垂らす。

青年の鮮やかな赤い髪を掴むと、股間に押し付けてははなす。まるで、青年の口をオナホールの様にして喘ぐ口の端からは涎が垂れて、なんともいやらしい虚ろな瞳をする吹雪。目尻に溜まった涙。あと一歩、絶頂期まであと少し。


そんなときに、青年のフェラチオが止まった。どうして、そう口にしようとした吹雪より先に、青年は腕に当てた時計を見やって。


「時間だ、行くよ。」


そう言うと、羽織っていた上着を吹雪の背中にかけて、コインランドリーをあとにした。


残された吹雪は、青年に手渡された上着からほんのりとする青年の香りと、暴走寸前の熱をもて余して肩をびくり、と一度だけ跳ねさせた。



人通りの少ないこのコインランドリーには、二人ぶんの生暖かい空気だけが残っていた。

いつの間にか、蒸し暑さだけを置き去りにして雨はやむのであった。



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