俺のこと、どう思ってるの?
片手に握られた写真たてにはいった写真は、10年も昔ヒロトも、恋人も中学生だったころにとった写真だ。もちろん、写真の当時の恋人は微動だにも自分のことを恋愛対象として意識すらしていなかったに違いないが。
写真のなかの少年たちは顔中泥だらけであるが、楽しそうな清々しい笑顔を浮かべている。そんな少年たちの表情とは裏腹に、ヒロトはどこか黒ずんだ感情にとらわれていた。
先月会った恋人は、笑顔で自分に話しかけてきて端から見れば楽しそうだ。しかし、本当のところではそうでないかもしれない。恋人にとって自分に信用されていないということは、孤独になるも当然で、あってはならないことなのに。恋人を傷付けたくはないのに。小さい頃から身についた、笑顔のしたの疑り深さ。
恋人を心から、愛している。紛れもない本心。それでも、いや、むしろだからこそ、恋人の本心を知りたい。誰にでも、愛想のいい恋人はもしかしたら、その愛想の延長で自分を愛したふりをしているんじゃないのだろうか、不安と欲が混ざりあう。
言葉いがいで通じあっている、そんなことあるのだろうか。本心は、そうでありたい。
最中に懸命に自分の名前を呼ぶ恋人が、愛しくて仕方がない。だからこそ、知りたい。言葉が、欲しい。
「おはよう。」
柔らかい恋人の笑顔。まだ、セットされていない髪がさらさらと首筋にながれていて、朝からへんに気持ちが盛り上がる。
ぐっ
「わっ」
拍子抜けした恋人の声、同時に俺とベッドに体重がかかる。
「な、なぁに?」
もう、びっくりしたよなんていいながら恋人は俺に柔らかく笑う。
「最近、仕事に手がつかないんだよ。」
「えぇっ?それって、大変なんじゃ…」
きっと恋人は聞き上手だ、こんなつまらない愚痴をまっすぐ聞こうとしてくれる。他人にも、たぶんきっとこうやって優しく接するんだ。
「君のことばかり考えて、なかなかね……」
俺がため息まじりにそう言うと、一瞬だけ目を見開いて、それからすぐに嬉しそうな表情を見せた。
「僕のこと考えちゃって仕事が手につかないなんて、ちょっとキザだよ。ヒロトくん。」
ふふっ、ほんのりピンクに頬を染めて俺をたしなめる。
「冗談なんかじゃないよ、本気でそうなんだ。」
「あんまり言われると、ほんと照れちゃうから…もうやめて。」
くったり、俺にもたれ掛かって顔を隠す恋人。首に髪がかかってくすぐったい。髪質も、髪色も、使ってるシャンプーも違うそれが、俺の肩で、まざりあう。
「本当に、君のせいなんだよ。」
きゅっ、腰にまわされた腕の力が強くなった。
「……ボソッ…僕だって、ヒロトくんの事考えてると、全然サッカー出来なくなっちゃうんだよ?」
蚊が鳴くみたいな、小さな声で俺も悪いと恋人は言った。
「(吹雪くん、吹雪くん。俺、君のこと愛してるよ。)」
「(きっと、ヒロトくんが思うよりずっと僕の方が大好きだ。)」
おんなじシーツに包まれた、悪魔みたいに疑り深い俺と、天使みたいな笑顔の君。