マタニティー2
「ち、違うの……!」
血相かえて、なんていうけど、まさにこの事だろう。真っ青になって叫んだ吹雪くん。
それから、俺が声をかけようとしたのにそれを振り払うようにどこかへと駆け出してしまった吹雪くん。
「吹雪くん……」
呆然と立ち尽くすヒロトと、何かを考えている様子の円堂。もし、呼びかけて吹雪が話を聞こうとしていたらなんと言葉をかけようとしていたのだろうか?なにか無神経なことを言ってしまって逆に傷つけてしまっていたんじゃないだろうか。そうやって考えると、ヒロトは一抹でない不安を感じた。
「なぁ、ヒロト。」
「え?」
呆然と考え込んでいたヒロトに声をかけた円堂。
「突然なことで戸惑ってるのはわかるけど、追いかけてやってくれないか?」
その言葉で、ヒロトははっとしてかけてあったジャケットを手にとって羽織ると円堂に向かって一言なにか言うと、社長室を飛び出した。
春風の吹くなか、乱れる髪も気にしないと言わんばかりに駆け出したヒロト。春風とはいえ、今年の春風は陽気など含んでいないまだまだ冷たく厳しいものだった。もしも、円堂の話が本当なのだとしたら、母体に障るのは間違いない。はやく、吹雪を見つけださなければ。
吹雪が行きそうな場所なんて、わからないけれど、がむしゃらに走って辺りを見渡す。たくさんの人混みのなか、吹雪が行きそうな場所はどこだと必死に駆けずりまわる。
東京に仕事(サッカー)の関係で来ていた吹雪と再開したのは、吉良グループが経営しているスポーツグラウンドでだった。チームの都合でこちらに来ていた吹雪にとって時たまにしかやってこない東京は未知で、頼れるものもチームメイト(あまり東京には詳しくない者ばかり)だけといった大変心細い心境だった。そこへ、同じように仕事の都合でやって来たヒロトと再開して、かつてのチームメイトのヒロトは(こちらに住んでいるのだから、もちろん詳しいはずで)吹雪にとってとても頼りになる存在だった。