………気持ち悪いっ
ズボン越しに触れてくる手は、ゆっくりと僕のお尻を鷲掴んではなすの繰り返し。また、このパターンか。たぶん、こいつは僕に痴漢するのははじめてじゃ、ない。まえにやられた時に僕がおとなしくしてたから、調子にのってまたきたんだ。
「………!」
尻を揉みしだいていただけだった手は、士郎の小さな尻肉の間を割り開いて、局部に触れていく。きゅっきゅっと、人差し指と中指が交互にそこを責め立てる。
「………っく」
気持ち悪くて仕方がない。だけど、目の前のヒロトには知られたくない!自分が、痴漢に必死に耐えていると知られるなどプライドが許さない。なんとか、耐え抜かなければ。
そうこう考えている間にも、手は尻を触るだけでは飽きたらず、前までも股の間から手を伸ばして触れてきた。
「……うっ…ん、……ぐ、…うぅ…、はぁっ…ぃ、や…」
気持ち悪くて、仕方がないのに男の生理現象とは可哀想なもので、いやな気持ちでいっぱいなのに声は漏れるし、身体は勝手に感じるし。満員電車のなか、電車が揺れるたびに乗客たちは押し合って、ヒロトの胸に寄りかかるかたちになっている自分の耳には、いつも通りの通常の幼なじみの心拍数。なんだか、痴漢にあっている自分だけが、違う世界にいるみたいで、泣きたくなんかないのに、泣きそうだ。
もう嫌だ、そう思ったとき痴漢の手がズボンに侵入しようとしてきた。終わった、ほぼ毎回のように痴漢にあっていた士郎だが、直で触れられることは一度もなかった。そんな風に、絶望に浸っていた。
「……ぐわっ」
野太い、荒い息使いまじりの後ろのオヤジの悲鳴。自分の股の間から後ろの痴漢する手に伸びた腕。
………………え?
そんな、まさか。
「………ヒロト?」
電車に乗り込んで、痴漢にあい初めて見上げる幼なじみの顔。
「なに?」
いつも通りの涼しげな表情で、自分のほうを見た幼なじみ。まさか、そんなっそんなことはあるはずが……。
プシューっ
電車の扉が開いた。外は、いつのまにかいつもの学校へ通う景色。なん駅またいだかなんて、気付けなかった。
「降りるよ、ほら。」
「………うん。」
ぎゅっと腕を引くヒロトの手。ほんとに……本当?ヒロト、僕のこと助けてくれたの?
だとしたら、僕が今日痴漢にあってたことも…。
悔しい気持ちと、感謝しなければいけないという気持ちが混ざり合って複雑で。
腕をひくヒロトの表情からは、何も読み取ることが、出来なくて。どうして?、知ってたの?それでも毎朝いまみたいに?僕が知られたくないのわかってたから?
バカじゃないの、本当にムカつく!ヒロトの……バカ。
「ほら、早く乗りなよ。」
「……わかってるよ!」
乗り込んだ自転車のうしろから見えるヒロトの背中が、僕と数センチしかかわらないはずなのに、なぜかすごく広く感じた。
いつも通りに、僕はヒロトのお腹に腕をきゅっとまわして学校に向かうのだった。