ガックンガックン、荒々しい音をたてつつ、ヒロトは更に動きを激しいものにしていった。
「ヒロトっ!……、そんなに激しくしたら、壊れちゃうっっ!!」
士郎は顔を真っ赤にしてヒロトに叫ぶが、ヒロトはそれに反抗する。
「はぁっ!?なにいってるのさ。士郎はっ……文句言える立場じゃ、ない…でしょっ!?」
「ぁあ゙っ……ばかぁっ!!」
荒い息をしながらヒロトは士郎にこたえた。そして、更に足の動きを激しくした。ぎゅっとヒロトの制服にシワがつくほど強く握りながら、それでもヒロトにうったえる士郎。
あぁ、ヒロトに壊される……。激しく揺れる身体。確かに悪いのはヒロトのいった通り自分であるとわかっていた。しかし、しかしだあまりにも荒すぎるもっと…もっと大事にしてほしい!!憎らしさをぶつけるように、握ったブレザーを指先が真っ赤になるくらい強く握った。
「これ、僕のお気に入りなんだからね……!!」
怒りを露にしながらヒロトに叫ぶがヒロトは完全シカトだ。真っ赤な自転車はペダルを激しく回転させながら、後ろに乗っている士郎を揺さぶりながら駅へ疾走していった。
プルルルル…
発車のベルが鳴り響く。二人はいそいで定期を通して閉まる寸前の満員電車に乗り込んだ。
「……せっま」
毎朝の事だが、士郎にはこれが堪えられなかった。狭い、後ろのおっさんは息が荒いし、隣の高校生のイヤホンからは音が漏れているし、耳が痛くて仕方ない。音量おおき過ぎでしょ耳おかしんじゃないの、心のなかで毒ずく。正面のヒロトは扉に寄りかかってすまし顔をしているが、自分はいつになっても慣れないでいた。でもまぁ、
「間にあってよかった…」
ふぅ、安堵のため息を吐いた。
「本当だよ、士郎が寝坊助なせいでこっちも大変だしさ。」
はぁ、今度はヒロトが呆れのため息をついて、言葉を返した。
「……うるさいなっ!間にあったんだからいいでしょ。」
ヒロトに言われて、頬をぷぅと膨らませながら士郎は言い返す。
「まぁ、たしかに…間にあったからいいけど…士郎はもっとしっかりしなよ。」
「…………いや、ヒロトがいるからいいでしょ。」
一瞬の間をおいて士郎はなぜか、どこか遠くを見つめる様な遠い目で答えた。まるで、悟りを開いた者のような瞳。
「なに?今の間。」
「いや、ヒロトがいるからいいでしょ。僕がしっかりしなくったって。」
なんともズボラで暢気な発言。これは聞き捨てならないな、しっかり言ってやらないと。ヒロトが口を開いて言おうとした、その時。
びくんっ
士郎の肩がびくついて、一瞬、瞳を揺らした。
「士郎…?」
「ひっ、ヒロト……ごめん、胸貸してっ…。」
そういうと、ぐっとヒロトの両肩を掴んで扉側におし寄ってきた。顔をヒロトの胸にうずめる士郎。肩を思い切りぐっと掴まれている。
「……うっ…ん、……ぐ、…うぅ…、はぁっ…ぃ、や…」
最初こそ、なんの事かわからなかったが、何度か士郎の肩が揺れて、その度に自分の肩を強く掴んで、押し殺された声が聞こえて気がついた。
士郎、また痴漢にあってる。
電車はガタンと揺れ続ける。同じ様に、士郎の肩も揺れている。