「おーい、朝だよ。起きなよ、耳噛むよ!」
「〜んっだめぇ、噛んだらぁえっちな声でるからぁ、やっ。」
「……起きてよ。」
なにをぶつぶつ言ってるんだか。寝てるときの方が利口じゃないか。まぁ、えっちな声が出るのかどうかは知らないけど。
お腹だして寝てる自分の方がよっぽどダメじゃないか。春夏秋冬目覚めの悪い士郎は本当にめんどくさい。いつかの蝉の声のうるさい夏の日なんかは蝉の声などなんのそのと言った調子で、まったく起きなかった。俺なんか暑さと蝉の声で頭がおかしくなりそうだったのに。おまけに「あついよぉ」なんて言いながら汗でべたべたの寝着を脱ごうとして、脱げなくて泣きそうな声で「ヒロトぉ、脱がせてぇ」なんて言って暑苦しいのに抱き付いてくるし。誰のために夏休みまで起こしにきてやってると思ってるんだ、さっさと起きろ。そして、補習へ行け。あの日の俺は暑さと苛立ちで頭が爆発寸前だった。士郎との毎朝の格闘は本当に体力を消耗する。
昨日の夜の機嫌の悪さの原因は、結局しょうもなかった。クラスのマドンナが自分に気があるくせになんで俺にちやほやするんだ。とかなんとか。確かにあの子は士郎に惚れてるよ。態度があからさまだからね。士郎はおバカさんだよ、うん。
昔からヴァレンタインにチョコがどっちが多かっただとか、ボタンが全部ないだとか、告白の回数だとか、結局ぜんぶ無下にするくせに変にこだわるのだ。毎年、おんなじくらいの数を貰うんだからいいじゃないか。あーそう言えば卒業文集のランキングも気にしてたな、たしか。
「士郎、起きろ!昔みたいに大っ嫌いな俺のちゅーするぞっ」
がばっ
やっと起きたか…、ん?いや違う。
「んふふ、ヒロトのちゅー大好きだからいいよぉ」
「だめだ、寝ぼけてる。」
上半身だけ起きあがって俺に抱きついている。この状態で起きてないんだから本当に、士郎は変だ。
どさっ
「うわっ……ほらっ、起きて」
ばしっ、ぺしっ
「い゙っ、いったぁーっ!ちょっとなにするのさっ!!お尻叩くなんて最悪!!」
「最悪なのは、どっち?なに士郎キミ、寝起きに俺を襲う気なの?」
「はぁ?ヒロト襲うとかあり得ないよ、そもそも襲うとか僕のポリシーに反するし。」
「わかったから、早く退けて。噛むよ、鼻。もしくは唇。」
寝相が悪すぎる。上半身だけを起こして俺に抱きついていた士郎は、勢いづいてそのまま俺を押し倒していて、鼻先どうしがくっついている。本当、世話がやける。顔だけが取り柄の士郎の顔は寝てると涎を垂らしてだらしないし、起きると起きるで女の子に間違えられたりする可愛い顔とは裏腹に口汚いし、性格が悪くて憎まれ口ばっかりだ。
「起きますよ、起きます。今なん時?」
「いつもの電車、発車10分前。」
「うわぁっ!!ヒロトのバカっ!もっと早く起こしてよ!」
「俺はいつも通りに起こしにきました。」
でた、八つ当たり。子供過ぎるよ。
「ヒロトっ急いで!」
「士郎が急がなきゃだめでしょ!」