オフシーズンになるとうちにやってくる吹雪くん。基本、ドアを開けたときに何があったのってくらいの形相で不機嫌な顔してるか、正反対に怖いくらいかわいい笑顔でヒロトくんって俺の名前を呼ぶかのどちらかだ。前者の場合は前日とかにうちに来たのに俺が忙しくってうちを留守にしてた場合。後者は簡単に飛行機から直でうちに来て俺がいた場合。
まぁ、案外わかりやすい子なのが吹雪くんだ。だから今チャイムの鳴ったドアの向こう側にいるのはどっちの顔の吹雪くんなんだろうか楽しみだ。後者なら、久々に会うわけだからそのまま押し倒してしまうかもしれない。前者なら前者で、むくれてる吹雪くんを抱き締めて人が見るからとか言って怒られるのもいいかもしれない。どちらにせよ、楽しみだ。
「はーい、今開けるから。」
飲みかけのコーヒーをデスクにおいて俺は玄関へと足早にむかった。
「いらっしゃい、吹雪く……ん?」
「……、」
おかしい、必ずどちらかのパターンがいつもの吹雪くんなのに。なんなんだ一体。フードを深く被ってうつむいて俺と目を合わせてくれない吹雪くん。
「どうしたの?体調でも悪いの?」
「……違うよ。」
「じゃあ、どうしたの?」
「……、」
聞いてもなにも答えてくれない吹雪くん。
「取りあえず、ここじゃなんだから入って?」
「……うん。」
ぽすん、デスクの正面にあるソファに腰かける吹雪くん。ここは彼の定位置だ。俺はそのまま仕事の続きをしなきゃいけないからデスクに戻る。
「吹雪くん、脱がないの?」
俺のうちに来ると厚着が嫌らしく、吹雪くんは薄着一枚になって過ごすのが彼のスタイルだ。それが今日は上着を脱ごうとしないからどうしたんだろうか。
「暖房、あげようか?」
「……いい。」
「寒いんじゃないの?」
「……違う。」
暗い、吹雪くんが暗い。うちにくるときゃんきゃん犬みたいに騒いだりして騒々しかったりする吹雪くんが暗い。なぜだ。
「あのさ、ここ室内だしフードだけでも脱ごうよ。」
デスクから立ち上がって吹雪くんのフードに手をかけた瞬間に吹雪くんは大きな声をだしてビックリするくらい強い力で俺が脱がそうとしてるフードをぬがまいとしたに引っ張る吹雪くん。
「……──いやッ!」
その言い方、なんか俺自体を拒絶されてるみたいですごいショックだな。上目遣いでうるうるして子犬みたいな目をして俺を拒絶する吹雪くん。
「俺のこと、そんなに嫌なの?」
「そうじゃなくって…」
「じゃあ、フード脱ぐのが嫌なの?」
「…うん。」
フード脱ぎたくないのか、そうか。髪が思うようにセットできなかったとか?寝癖だらけとか?いやでも、寝癖なら何回か見てるわけだし、恥ずかしがる必要ないよね?、今さら。だけど、嫌だとかやるなとか言われるとやりたくてウズウズしてくる。昔みたいにいたずらな気持ちが沸き上がってくる。まずは説得からだ。
「吹雪くん、髪型くずれるよ?」
「そんなの、いい。」
これはびっくり、身だしなみを気にする吹雪くんなら確実に脱ぐだろう文句を簡単に断られた。うーん、脱がせたい。
「フードの中が蒸せて禿げちゃうよ?」
「…禿げないもん。」
そうですか、禿げないもん、ですか。可愛い、可愛いよ吹雪くん。上目遣いでもんは酷いよ可愛すぎるよ。年不相応な吹雪くんの可愛さにはやくも俺は勃起しかける。だめだ、久々にあったからってこのタイミングで勃起はだめだ。自重しよう。
だめだ、落ちつかなきゃ。落ちつかなければと、無意識にフードの上から吹雪くんの頭を撫でていた。
「んっ……頭、なでないでぇ、ヒロトくん。」
え?今、吹雪くんの肩がびくっとしてえっちの時に出す声を一瞬だけ出したのを俺は聞き逃さなかったし、見逃さなかった。確かに、頭なでて気持ち良さそうっていうか嬉しそうに甘えてくることはあってもあんなえっちな声を出したことなんて一度もなかった。怪しい、さわり心地も髪の柔らかだけじゃなかった気がする。
「吹雪くん、俺…キスがしたいな。」
吹雪くんの両頬にそえていた手をずらして片手でフードを引っ張った。
「─やッ!」
瞬間、かわいい声を出して両手で頭をおさえた吹雪くん。だけど俺は見逃さなかった、吹雪くんの藤色の柔らかい髪からのぞくそれを。
なんなんだい、そのかわいいみみ。