「………、やっぱりやめ」
「社長。」
「だめかい?」
「だめです。」
躊躇するヒロトに緑川は腹をくくれとヒロトを急かした。それでもヒロトは決心出来ずにいた。ケータイのアドレス帳を開いては行、吹雪士郎とかいてあるアドレスでヒロトの手はとまっていてあまりにもヒロトがなにもしないために呆れてケータイは画面を真っ黒にしていた。
「緑川、」
「なんでしょう社長。」
「言ったよね、俺と吹雪くんそこまで仲がいい訳じゃないよ?それに男同士だし、」
「社長、後腐れないようにお願いします。」
「……、」
ヒロトの抗議に緑川はいっさい耳をかす気はないらしい。どうしてこんなときだけものすごく秘書らしいんだ、いやいつもちゃんと仕事してくれてるけども。
「わ、わかった。いくよ。」
いきます、と声をかけて光を戻した画面の吹雪士郎とあるアドレスに触れた。とたんメールの新規画面がヒロトの目のまえにあらわれた。あぁ、だめだ指がすごく震える。でも、やらなくちゃいけない。必死の勇気をふり絞ってかいたメールがこれだった。
to:吹雪士郎
subject:無題
──────────
久しぶりだね。
元気にしてた?
突然だけど君に伝えたいことがあってねメールしたんだ。
実は…日本代表の頃から、君のことずっと好きだったんだ。
こんなこと急に言われても困ると思うんだけど、俺やっぱり君のことずっと好きなんだ。
一度だけ、考えて見てくれたりしてもらえないかな?
返事、待ってます。
──────────
「こ、こんな感じでいいかい?」
少しばかり、まわりくどい文章。しかし、ヒロトも立派な成人である。慎重になるに決まっている。十代のころに比べて勢いがなくて当然なのだ。
「送信してください。」
「え、送信するのかい?」
「当然です。」
勢いつききれないまま送信ボタンに少しずつ指をそわせていった。
「あっ!」
びくっ
「な、なんだい急に。驚かせないでくれよ。驚いて押しちゃったじゃないか……あっ…」
「押しました?ふふ。」
「君、もしかしてわざと…」
「社長の背中を押すのも秘書の仕事かと思いまして。」
そういった緑川の表情は少し得意げだった。無機質に送信しましたと表示されている画面がものすごく憎らしかった。