「ハムスターわかるよね?」

「わかるけど。」


それがなに?重たい空気の中で急にハムスターを知っているかと質問された。話そらそうとしてるわけ?イラリイラリと吹雪の頭には先程よりも血がのぼる。


「ハムスターってね、餌がない地域にもともと生息しててね。」

「はいはい、それで?」


椅子に腰かけている足がたんたんと床を弾きはじめる。所謂、貧乏揺すりである。またか、吹雪は半分聞いて半分流す勢いで早く話を続けろとヒロトを急かした。


「餌袋が両頬にあるだろう?」

「そうだね、ありますね。」


急かしているというのにヒロトはまったく吹雪の急かしには反応を見せず悠長に話を続ける。やっぱりマイペースなんだ、もともと自分も人のことを言えないはずの吹雪が自分のことを棚にあげてヒロトに対して内心ちっと舌打ちをした。


「その袋がなんのためにあるか知ってるかい?」

「知らないでーす。」


吹雪の返事は明らかに適当なものだ。基本、人にはフェミニストな態度で接するのが吹雪のモットーであり、アイデンティティーであるが、ヒロトに対してはすべて無効なのである。下品にだんだんと貧乏揺すりをして、その音はしっかりとヒロトの耳にも届いていた。さらには机に肘をついて頬づえをついて、普段のフェミニストな吹雪の面影はそこにはなかった。もともと、ぼんやりとしているそのうつろでな瞳がヒロトの退屈な話によってますます虚ろなものになっていて、危うさが二割増しだ。彼に声援を送る女性たちが彼のこの姿を見ればどう思うだろうか。人気を二分している風丸の方にみな移ってしまうかもしれない。それでも今の吹雪は構わないと思っていた。


「ハムスターって食べるの早いけど頬っぺたがふくふくしちゃうだろう?吹雪くんみたいに。」

「はぁ!?」


適当に聞き流していると急に吹っかけられてきたケンカ文句。頬づえをつくのも、貧乏揺すりもやめてばっと目を見開かせてヒロトをみやった。


「いや、吹雪くんは常にふくふくしてて可愛いんだけどね。」

「からかうかケンカ売るのかどっちかにしてくれるッ!?」


だんっ

両手でテーブルを叩きつけてヒロトを睨む。液晶やフィールドから見られる彼はそこにはいない。童顔が吹雪の子供っぽさを際立たせる。

ふくふくなんて、スポーツ選手の自分にたいして侮辱や愚弄でしかない。筋力トレーニングはしっかりおこなっているつもりだ。


ふんっ拗ねてそっぽを向いてみせる。貧乏揺すりだなんてことはもうしない、ゆっくりたんたん足を踏んでいる暇はない。そんな吹雪の態度にそれでもすねちゃった?そんなところも可愛いね。なんて吹雪をからかうようにつぶやいてそれでも吹雪の態度に動じることなく言葉をつづける。マイペースというよりは、余裕綽々といったところである。


「あれね、食べずに貯めてるんだよ。それで、後からゆっくり食べてるんだ。」

「だからなに!?」


口調はどんどんと荒いものになってゆく。かわいい後輩がみるときっと驚くだろう。一人で練習していた時の自分よりもタチの悪いすね方である。


「だからね、ペットとして飼われている今でも本能的に、目の前に与えられた餌はすぐに口に含んじゃうんだ。」


すねた子供をあやすこともなく、だからといって自立を促し無視をするわけでもなくヒロトは淡々と哲学の一部を話すことをつづける。相変わらず吹雪には単なる雑学にしか感じない。もっと荒い言い方をすればただのうんちくにしか感じていない。

あやされないことに更に不貞腐れてゆく。


「結局なにが言いたいの?」


早く話よ終われとなげやりな返事をそのまま伝えた。


「だからね、そういう本能が染みついてるんだよ。」

「うん、それさっきの話聞いてたらわかるから。」

「あっちゃんときいてたんだね。」

「聞いてますけど?」


痛い、痛い。眉間にじりじりとしわを寄せてふてぶてしくヒロトに返事をかえす。あー、せっかくいつも笑顔にしてるのに、顔にシワがよっちゃう。苛立ちながらも冷静に自分の心配をしているあたりがいかにも吹雪らしさを感じさせる。


はぁー、ため息を吐き捨ててヒロトの方に向きなおる。そこに苛立つ吹雪はいない、いるのは呆れた表情をした吹雪だけだった。


「信じた僕が、バカだったんたね。」

「いや、だからね」

「やっぱり大嫌いだよ。ヒロトくん。」


ギンと睨んで、それからファンを魅了してやまないとびきりの笑顔を魅せてヒロトの立派な革靴を踏みつけた。



この、浮気者!



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