回りくどい愛の伝え方 | ナノ

「冷たい、金属触ってるみたいだ」
 ふと目の前にいる、否、躯を預けている疾風が呟いた。
 昔からだ、とオニキスは疾風の背に腕を回して引き寄せた。
「離せよ、体温下がるだろ」
「そなたは火照っておる故、ちょうどよくなろう。離れたくば力づくで抜け出せば良い」
 嫌がる素振りは口先だけという疾風の言動を逆手に取った駆け引き。結果、疾風はオニキスの腕からは指一本たりとも抜け出さずにいた。
「あんたが離れたくねーみたいだから、動かないだけだからな」
 疾風はふいと視線を逸らす。頬は赤く、唇は震えている。小動物のさながらの姿に、本来ならば小さいのは自分なのに彼が小さく思え愛しさの意味を込めた接吻をひとつ紅潮した頬に送った。余計に火照りが増したのは気のせいではないはずだ。
「なッ、なにすんだよ!」
「解らぬならもう一度やるが?」
「やだッ!」
「詮無きこと、減るものではないであろう」
 もう一度、疾風の顎を上にあげて今度は唇に。頬にした時よりも増した熱に融けてしまいそうだ。低体温をこの時は有り難く思えた。
 疾風の白磁の肌がオニキスの肌に掠められる度にびくりと跳ねる、その姿にはオニキスは不思議と扇情されずにいたがどうやら相手はされていたようだ。 半ばに開かれた瞳は濁りオニキスは映らない。見せるのは、魅せるのはただの宵闇に酷似した漆黒。
 ただ荒く拙い息継ぎの中で名前を呼ばれたのは狡く、いや狡い。演技であれば一流だ。
 そんな狡い疾風にどう愛を伝えてやろうか。

 ひとつ婉曲表現を使うなら「時めかす」という言葉を送りたくてたまらない。通じてくれなければあとで辞書を引けと言えばよいのだから。
意味に気付いたら疾風はどうするだろう。また真っ赤になるのだろうか。

 ひとつ外来語を使うなら「Crazy about you」といった感じだろうか。
 これも意味を知ったらどうなるだろう。ビンタのひとつは覚悟せねばならないのだろうか。

 率直に伝えるよりも少し回り道をして相手に推理させる楽しみを、推理する楽しみを。
 オニキスは疾風を抱き締める強さを変えることなく思案を続けていた。
「……さっきから何黙り込んでんだよ」
 疾風は不満げにオニキスの髪をついと引いた。呼応するようにオニキスは疾風の髪を結い上げた紐をするりと解き、ゆっくりと梳く。
「詮無きこと、気障ったらしく回りくどい告白の台詞を考えていただけである」
「ばっかじゃね……んん、っ」
 疾風の髪が長いためか、毛先まで撫でようとすると自然と背筋に触れる。素っ気ない疾風の返事は忽ち甘い吐息を孕んだ。「躯は正直」の俗説の証明をした気分だった。

「……月が綺麗ですね」
突然オニキスの口調が変わったためか疾風は上目遣いの眼を丸くした。
「何だよいきなり、それに今は月なんてねえよ」
「いや、或る文豪が訳した或る言葉を言ってみただけだ。聞きたいか?」
知りたいのだろう、疾風は一度頷く。オニキスは疾風の耳許に口を寄せ囁いた。直後、疾風の顔から煙が出てしまった。それも当然、いや必然だったのだろう。
「I love you」
なんて、言われたのだから。
 三度めの接吻は、一番熱く、長い接吻だった。



回りくどい愛の伝え方


(オニキス×疾風くん)
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