agitation Star Dust | ナノ
宵闇の帳が降りる時刻、頭上に星々は煌めく。
「あれが、冬の大三角だ」
漆黒に反する三点の光を指差して芝生に座るシェレは教えた。隣に座るキッドもその動きに合わせ三点を見えざる線で結ぶ。
「その先が、カシオペア。その中央から三つほど上に北極星」
Wの文字に星を結んだシェレはちょうど線上の真中にある星に伸ばした親指と人差し指を翳し三等分するように二度上に動かす。二度めに人差し指に当たった星が北極星というわけだ。
「北極星は動かないから、コンパスがなくても北だけはこうやって割り出せるんだ」
まるでプラネタリウムの説明を聴くようにキッドは無言で空を眺めた。
天体学を学んだことのないキッドにとってはシェレが教師だ。その他数学やら化学やらとキッドの知らない世界をシェレは惜しげもなく教授する。
シェレ自身太陽を苦手とする為夜にしか逢えないが、キッドは大抵夜に活動している為シェレとの逢瀬の回数は十指に余る。
おかげで博識になったキッドを同僚や上司が奇異の目で見るようになってしまったが。
「キッド? おぅい」
回想を遮るシェレの声で、キッドの意識は眼前の星空に戻る。
「あぁ、ごめんなボーっとしててさ」
謝罪を示すようにシェレの髪を撫でた。続けて額に唇を落とす。
「ん、大丈夫」
半ば擽ったいように目を瞑って身を捩るシェレをキッドは抱き寄せ膝の上に向き合うように座らせた。
ちょうど月明かりがシェレを照らす。ラベンダーの色をした髪は風に揺らめく焔のよう。その髪の間から覗く二つの光は細められていた。綿雪のように白く柔らかな四肢がキッドの胴に絡む。
「綺麗、だなぁ」
思わず感嘆の息を洩らす。こんな艶美な光景をまさか自分のものに出来るとは。それも純粋に、恋人同士として。
「んっ……」
熱を帯びた吐息が鼓膜に焼き付く。
「シェレ、可愛いよ」
耳元で囁けば胴に絡む四肢がびくりと震える。
「やらっ、キッ……はあんっ!」
スルリと内股を愛撫されたシェレは仰け反る。キッドはシェレの顎を押さえて些か乱暴に唇を重ねた。
深く、舌が絡み合う接吻の中でキッドはシェレを横に抱きかかえる。所謂姫抱きというものだ。
「な……っ! 降ろしてくれキッド!!」
羞恥心からシェレの顔は紅潮する。キッドは悪戯小僧のようにニンマリと笑みを浮かべる。
「なんなら此処で襲っちゃおっか?」
言うが早いかキッドはシェレの顔中に、数えるのが面倒な程キスの雨を降らせる。もう何度となくそれを甘受してきたシェレも身を捩って受け入れる。
「そんなに揺れてたら落っこっちまうぜ? それとも……」
キスだけじゃ、物足りない?
キッドの挑発的な問いにシェレは腕の中で小さく頷いた。
「続きは、ベッドの中で……な?」
夜空に消えた囁きの返答にシェレはキッドの胸にすり寄った。
Agitation Stardust
(煽り煽られ、輝きは増す)
※杏崎さまへ。
キッド×シェレくん