Ich liebe dich keine Wahl


 最初は、釣り合わないと感じた。
 女の子みたいな容姿も、敬語だらけの口調も、あたたかい体温だってそう。
 でもよく聞く話だと、すべて似通った組合せより反対の要素の混じった組合せがいいらしい。

「つまり僕と千弦は相性がいいってわけだよ」
 伝聞、推定の仮説を高らかに僕は語る。論拠はないが感覚的に理解はできる。
「はなして……くださ…」
 小さな喉をひくりと震わせて千弦は願う。でもそれはできないな。
 僕より一回り小さな躰は抱き締めたらいい具合に収まる。今だってそう、後ろから座った体勢で抱き締めてる。勿論手加減して。
「離れたら、寂しいよ」
 離して、という言葉を婉曲的に否定する。しかしこれは僕の本心でもある。密着する面積が少しだけ増えた。なんて温かいんだろう。
「さみ、しい……?」
 僕の台詞を千弦は首を傾げて反芻する。傾げたときに見えた左の首筋をなぞる浅い傷痕に僕は唇を寄せていた。
「ギ、ル……っあ!」
「ごめん、痛かった?」
 名前を呼んでくれたことが嬉しいけど、ついで発した喘ぎの由来が判らなかったから思わず訊いた。千弦はかぶりを振って僕の方を向く。少し紅潮した可愛らしい顔が視界に入っただけで、継ぎ接ぎの僕の心臓が高鳴る。
 冗談抜きで君が好きだよ、なんて言えたらいいのに僕の唇は言葉を紡がずにむしろ千弦の唇に吸い付いた。
 好き、すき、スキ――ありったけの愛してるをドリップした液体を口移しで千弦に届ける。届くかな、届くといいな。

「ちゅう」

 そんな音を立てて唇を離す。目元がとろんとして惚けているのを見ると口移しの効果は効いたみたいだった。
「可愛い、千弦。食べちゃいたい」
「美味しくないですよ?」
「決めつけないでよ。味付けしてあげるから」
 味付けだなんて、口実。鬱血痕を残して所有したいだけのくだらない嘘。

「ン、んぅっ……」
 躰ごと正面を向かせて器用に露出させていく。落としたら割れてしまいそうな白磁を想像させる肌に唇を吸い寄せる。白い肌に浮かぶ赤い痕がいかにも犯しています、と主張していた。
「あん、あんっ……やぁんっ」
 首を左右に振っているくせに両腕は僕の背を抱いている矛盾に思わず笑みを零してしまう。やることなすこと、千弦は本当に可愛いんだから。少しだけ啄む回数を増やした。

「……Ich liebe dich keine Wahl」
 父さんの本にあった、拙い外国の言葉。多分意味は僕にしかわからないんだろうな。耳元でそう囁いて、柔らかい寝床に押し倒す。細く白い太腿をするりとなで上げると高い声で千弦は啼く。
 触れる度に熱くなる体温と肌の赤みが心地よくて、羨ましくて。情を交わすときはずっとその肌に触れようと思う。

 痕を新たに残す罪悪感をここにはいないキリストに懺悔して、過去の傷痕に封をするつもりで眼前の右手首に接吻を送った。


(Guilty×Tiduru Lovers memory)



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