※ライアシュ

僕が知る中で、彼が一番僕を愛してくれている。それは嬉しい。
しかし、僕の理想の愛と、彼が思い描く愛の図が大幅に違うのが難儀なことだ。

「そばにいておくれ」
 そう僕が願った夜半に彼は同衾して僕に抱かれた。
 ただ近くに、僕の視界にいるだけで十分だったけれど彼は躰を重ねる程の距離を欲していた。
「あん……ライラ…っ、ここに、ライラの……はやくぅ……っあ!」
 長く美しい空色の髪が湿気を含んで濡れている。白い肌は差し詰め雲のように僕の指を痛みなく受け入れた。
「急かさないで、お願い」
 僕は彼の濡れた髪を梳いて懇願した。彼は厭々と首を横に振り、僕に接吻をせがむ。唇が触れたと同時に彼は僕の背中に腕を回した。
「狡いね、君は」
 僕はどうしたらいいの? と訊くと、彼は「知ってるくせに」と眉を顰める。
「判らないな、教えてよ」
 冗談めかして耳元で囁くとびくりと彼の肩が震える。至近距離で見る彼の頬は紅潮し、口が動くものの、声にならずに生温い息がかかる。潤んだ唇と瞳はそこいらの娼婦よりも手練れのよう。
 これが――闘技場の雄か。僕の前では淫蕩に耽る獣に成り下がっているのに。このはしたない獣が愛しい。
「……ライ、ッあ!」
 僕の背中に回していた彼の腕から抜け出し、彼の脚を割る。曝け出された箇所を見る僕の眼も獣のそれなのだろう。僅かに彼の眼差しが怯えを孕んでいる。溢れる恍惚に涎を垂らしながら。
「――愛してるよ」
 と囁けば、狗のように舌を曝して悦んだ。声だとは到底認識出来ない呼吸が僕の鼓膜を支配していく。
 堪らず、僕は彼の秘部に張った自身を打ち込んだ。僅かに電気を帯びた僕のモノはどうやら彼には刺激的だったようで。思い切り背中を反らせて果てた。
 所謂トコロテン、というやつで僕の顔に彼の精液が嫌というほどかかっているのに彼は顔を逸らせたから被害は皆無だった。試しに指で掬って舐めるとねっとりとした感触と発酵しすぎたチーズのような味がした。さぞご無沙汰のようで。
 果てたまま戻らない彼の躰を弄ぶように僕は挿入をしたまま愛撫を繰り返した。己の腹の上にかかった液をそのまま彼の腹に塗りたくった。てらてらと光る液が艶めかしいものに思えた。
「アーシュラ」
 僕が名を呼ぶと、僅かに肩が揺れた。もう一度呼ぶと、首が動いて紅潮しきった彼の淫蕩な顔が見えた。

 嗚呼、やはり君はその表情が一番愛おしいよ。

けだもののよとぎ
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