彼は自分が嫌いだと云っていた。

「おれは、あなたが羨ましい」
セルロイド製の冷たく無機質な頬を撫でながら、ルティは嘆息した。
「けれど、あなたのようにはなりたくない」
然りと意志を持った眼差しが忙しなく動き続ける歯車たちを映し出す。金属製の錆びかけた右腕が鈍い音を立てながら持ち上がり、ルティの唇をなぞった。
「あなたが人間であったなら……そう、何度も思い描いてきました」
苔色の髪を梳きながら、ルティはセルロイド製の唇に己の唇を重ねる。無機質な冷たさと硬さだけが唇を通して伝わった。
「けれど、その度に思い出すんです。あなたの胸の奥で聞こえてる……歯車の音、オルゴールみたいで、愛しい」
ルティはそっと目を伏せる。その視線の先には内臓のかわりに身体に収められていた絡繰が無惨な程に掻き乱され、破壊されていた。血が一滴も流れていないのに得た悪寒は「彼」の終わりが近いことを意味していた。
「ずっと傍にいたい、そうしてもいいですか?」
返答するように錆びかけた腕はルティを抱き寄せた。抉られている首筋は焦げ臭くくすぶっていた。声が出ないのだ。と、一秒にも満たぬ刹那に察した。
「スティグマさん」
ルティは機械の名を呼んだ。硝子製の眼がルティの顔を捉える。そして、笑みを浮かべるように細く歪めた。
「……だいすき」
あどけない双眸に映る機械の姿は波紋のように揺らめきながら歪んでいた。

或いは深遠よりも真っ青で
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