グレープハワイシロップ *05/17 22:12
らみちゃん宅ひめこちゃんとたみこちゃんお借りして小噺
季節は六月だとおもってくださいな
「ブルーハワイが食べたいね」
彼女はあたしの髪に触れながらつぶやいた。
「夏祭りはまだ先の話じゃないかしら」
外側にはねた毛先を櫛で垂直に梳きながらあたしは彼女の話に合わせることにした。
「今はいつでもかき氷が食べられる時代なの」
「シロップは手に入らないよ、まだ」
「すぐ手に入るよ。通販とかで」
「そうかしら」
そうだよ。と、彼女はあたしの髪を弄ることをやめた。背後からの気配がそのまま正面に回り込む。いちごシロップの眼がこちらを見据えてきたので思わず背筋を伸ばしてしまった。
「ひめこを見ていたら、食べたくなったの」
嬉々としてそう言い放つ彼女にあたしはぞっとした。まるであたしの印象がすべてブルーハワイになってしまうような錯覚。碧い髪、碧いワンピース、碧いリボン、ああ傘までも碧だった。それが、すべてブルーハワイの一言で片づけられれば、あたしを形成している「あお」がシロップのように流れてしまう。
一瞬だけ、触った髪が濡れた気がした。
「ぶどう味って、ある、かしら」
苦し紛れに紡ぐ言葉。彼女の髪はぶどう色だから、おあいこ。
「きっとあるよ」
彼女は笑って返した。
あいこなんかじゃ、なかった。