サヨナラ笑顔と断頭台 *12/14 03:45


もしも千弦さんが生前のギルティに会ったら

というおはなし

彩都さん宅千弦さんお借りしました(´ω`*)






 暗緑の木々に囲まれた森。まるで童話の魔女がいつ出てきてもおかしくないような景色を千弦は進む。
 苔を踏みしめ、踏み入れた。森の出口は世界を超えたように明るい。
 小川を渡り、大樹を境に左へと。
 其処に佇むのは、寂れて蔦の巻かれた廃教会。誰もいない筈の場所から聞こえたのは、オルガンが歌う賛美歌。
 その歌に誘われるように、千弦の足は勝手に教会へと、手は自然に扉へと。
 静かに開かれた扉の奥、其処でオルガンを奏でていたのは一人の修道士。たった一人、其処だけが彼の世界であるかのように。

 もしかしたら、前に聞いた「背教にして背徳の魔女」が彼なのだろうか。その後ろ姿を振り向かせて、確かめたい。
 かつん、かつん。厳かな足取りで千弦は近寄る。
「どちら様でしょうか」
 三歩進んだときに、声は掛けられた。オルガンを弾く手を止め、緩やかに振り向いた。その表情に笑顔は、ない。
「ギル、ティ……」
 声は自然と出ていた。夕陽の色をしている瞳、空の色をしている髪が同時に揺らめく。
「ギルティとは、貴女の名前でしょうか?」
「いえ……貴方の、名前です」
 死後の、と続けることはできなかった。
「『罪悪』……魔女にぴったりですね」
 彼は、申し訳なさそうにはにかんだ。その表情は世相の憂いがうかがえる。
「本当の名前は、なんですか」
 生きた、修道士の名前を。在りし日の、彼の名前を知りたい。
「ロー、といいます。『法律』の『law』です。貴女は?」
「千弦と、申します」
 ローが手を差し出す。切り傷と痣に染められた痛ましい腕に触れれば、その傷を打ち消すような肌の温もりが返ってきた。

「人に触れられるなんて……久しぶり。貴女は、平気?」
「ロー、手が震えています」
「……嬉しいんです。死ぬ前に、誰かの手を握れることが」
 死に対する未練がなくなったようにローは微笑む。その表情がいたく心臓を抉るように千弦には思えた。
「つめたくなったまま、あそこに立つのが唯一の未練だったから」
 ほら、あれが私の墓場です。
 ローが外を指差す。穏やかな日差しを受ける教会の中庭に不釣り合いにも程がある断頭台がひとつ、中央を占めるように佇んでいた。

 本当に処刑されたのか――。
「神に背いてまで生きたいとは思えないのです……例え濡れ衣だとしても、私は自身にかけられた罪を贖うつもりです」
 ローの凛とした声音は、教会全体に響いた。
 俯いたまま、千弦はそれでも反論する。
「『魔女』のまま……死ぬつもりですか」
「それが、キリストのお導きなのでしょう」
 ローはこれ以上話すこともないと断定したのか、すっくと立ち上がり千弦の頬を撫でる。
「悲しまないで。例え体がなくなっても、私はずっと貴女の手を握っているから」
 頬を撫でる手と反対のそれでローの指が千弦の指と絡まる。
「『ギルティ』に逢ったら、伝えてください。『私は、魔女として死んだことに未練も後悔もない』と」
 千弦は小さく、頷いた。

――――――――――――
ロー(生前ギルティ)は千弦さんのこと女だと思ってます
「貴女」呼びはそんな理由

千弦さんが会った時期がちょうど処刑の直前だったから魔女魔女ゆうとります



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