色-賜-SS
こうすれば寒くない 2/6

「ちょうど良かった。粥を炊いてみたのですが、少し食べていただけませんか?」

「余裕のあることだな。炊き出しをする暇があるとは思えぬが」


相変わらず鼻声だが、朝よりも喉が回復しているらしくすらすらと話せる。
李句も気づいたらしく、嫌味に苦笑しつつもどこか嬉しそうだ。


「口の堅い方数名に、一人で作業をしているところを見つかってしまいまして」


これもその方たちの指示ですよ、と言いつつふわふわと湯気の立ち上る器を持ち上げる。
確かに半兵衛の所のあの者が作ったものならともかく、李句なら文句のないものを作ってくれよう。

それにしても、相変わらず狡猾なことだ。
わざと見つかっても口外しない人間の前で仕事をしたな。


「どうせこの体たらくでは味も分からぬからといって、妙なものを入れては」

「え?」


いないだろうな、と確認しようとしたが、蓋を開けようとしていた李句の手がこちらの言葉で止まる。
怪しい。

私はその手を押しのけると、そっと蓋を持ち上げた。


「…漢方臭い」

「あ…じが、ひどくならない程度に…」


見た目には何ら問題が無い。
ただしそれ以外は、期待したものとは随分違うようだ。


「薬膳鍋なら聞いたことはあるが、粥は…」


味はまだ分からないが、少なくとも食欲をそそる香りではない。
鼻が詰まっていてもこれなのだから、実際この部屋に満ちている臭いは想像で補えるものではないだろう。


「申し訳ありません…その、すぐに作り直して」

「構わぬ。米を無駄にしたくない」


少々かさ増しされた薬だと思えばいい。
しかし…山から汲んだ水を使い、丁寧に米から炊かれた粥はそれだけであれば最上のものであっただろう。
そう考えると、やけに口惜しく感じる。


「ああ、確かに酷くはない」


一さじ口にして、感想を述べた。
器を膝に置いて、ゆっくりと冷ましながら食べる。
覚悟したほどの苦味はない。優しい塩気とほろ苦さが上手く合う。

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