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次の日の最後の授業は、氷室先生の数学。いつも時間ぴったりに授業が終わる。
時計を見ている様子もないのに、先生が「…以上だ」と言ったと同時に鐘が鳴るから不思議だ。
みんながまたさわさわと帰り支度を始める。
よし、今日こそは。今日こそは声をかける。
ふんと気合を入れて、昨日と同じようにななめ前の席に向かう。
不二山くんは首をこきこき言わせながら、まだ席に座っていた。
今日は大丈夫そうだ。よし、もう少し。
「…君」
「はっ?…はい!」
氷室先生がわたしのことをまっすぐに見ながら声をかける。え?わたし?わたしですか?
「先週君が提出したレポートの件で話がある。職員室に来るように」
れ、レポート?レポートですか?そして今ですか?
「…不都合でもあるのか?」
「えっ?…いえ!はい!行きます!」
氷室先生の後ろについて、とぼとぼ職員室へ向かう。鞄を持って教室を出る、不二山くんを横目で見ながら。
「…はあ」
教室へ戻ったのはそれから20分後。なんのことはない、レポートが良く書けていたからというお褒めの言葉と改善点の指摘だった。
氷室先生から褒められるのは正直嬉しい。でも気合を挫かれた気分なのは確かで、思わずため息が出た。
不二山くんに声をかけるのは、今日じゃなくていい。それは確か。
でもなんだか「よし、行くぞ!」と気合を入れていた分がっくりくる。こんなにタイミングが合わないのって、ほんとに神様に邪魔されてるのかなあ。
「…はあ」
机に突っ伏してため息をつく。
なんかもう、声かけようとかマネージャーやってみたいとか、神様がやめろって言ってるような気がしてきた。
…やめちゃおう、かなあ。
がらり。
教室のドアが開いて、見慣れた金色の頭がぴょこんと覗く。
「あ、居た」
「琉夏くん?どうしたの?」
にっこり。いつもの、考えが読めない極上の笑顔。
「ほら、おいで?」
「え?」
「早くしろ、おら」
琥一くんもいる。何?どうしたの?
「…きゃ!」
琉夏くんに腕を掴まれて、そのまま走らされる。なに?なに?なに?
こないだの帰り道よりずっと速い。私が走ったこともないような速度で引っ張られて、何も考えられなくなる。
昇降口で急かされながら靴を履き替えて。そのまままた引っ張られる。速い、速いよ。
「はあ、は、はあ、な、なに…」
やっと二人が止まってくれたのは校門の近く。校門の脇、そこに立っていたのは。
「…あ」