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「おんなじクラスでしょ?いくらでも話できるじゃん」

「そうでもないんだよね…」

まず不二山くんは、暇そうにしているときがない。休み時間は男友達と喋ってるか、ちゃかちゃかと早弁をしている。もしくは机に突っ伏して寝ている。
掃除当番や日直も一緒になったことがない。
席も遠くはないけど、世間話するほど近くはない。

それにもう1月になっている。いいかげん同じクラスになって時間がたっているのに、話したことのない男子にいきなり教室で話しかけるのはちょっと勇気がいることだった。
みんないるところで「誰?」とか言われたらいたたまれないし。

「誰だかわかんねぇ、ってことは無いだろ」

「それがあり得るんだよ。不二山くんは」

こないだ、3学期が始まったばっかりのとき。ちょうど日直だった平くんが先生の伝言を不二山くんに伝えたら、彼は真顔で言ったのだ。「おまえ誰?」って。

「あの瞬間はさすがにクラスが凍ったよ…」

「すごいな。俺でもさすがにクラスの名前は覚えてるのに。コウは…覚えてないか」

「あぁ?馬鹿にすんじゃねえよ」

「んじゃ女の子の名前、順に言ってみろ」

「……」

うっ、と言葉に詰まった琥一君を見て、思わずため息が出る。

「…ね?琥一君も女子の名前は覚えてないでしょ?ましてや不二山くんは、話したことも無い女子の顔と名前なんて覚えてないと思うんだよね…」

そんな状態で、教室で寝ている不二山くんを起こして「はじめまして!」的な挨拶をする勇気は無かった。
だから校門でビラを配ってるときなら、話しかけられるかなと思った。のに。

まずビラ配りをしている不二山くんに出会うことがなぜか少ない。わたしが用があって帰りが遅くなる日に限って配っていて、帰るころにはもういなかったりする。
何度か教室の窓から校門を見て「今日はいる!」と思って走ったけれど、校門につくころには走りに行ってしまっていた。

「ああ、まむちゃんどんくさいから…」

琉夏くんが哀れみの視線を寄越す。

「大きなお世話です。でも前よりはだいぶ体力ついたんだよ?家で縄跳びやったりして」

「ほお?50メートル走何秒だよ?」

今度はわたしが、うっと言葉に詰まる。

「…12秒7…」

「うわあ…」

「…こりゃまた…」

かわいそうな子を見る目つきになった二人を睨みながら、気合を入れて立ち上がる。

「でも大丈夫!これ見て」

ポケットから取り出したビラを突き出してやると、二人が顔を寄せてきた。

「『柔道同好会、部員募集』ああ、これそのビラ?」

「そう。配られた子に貰ったの。んで、ここ見てここ」

「あぁ?『マネージャー同時募集』?」

「そう!」

ふん、と握りこぶしを作る。

「運動はまあちょっと得意とはいえないけど、マネージャーなら何とかなると思うんだよね!」

「………」

二人ともなんとも言えない微妙な顔をしている。失礼だなあ。
もっと何か言ってやろうと思っていると、予鈴が鳴るのが聞こえた。

「あ、わたし次移動教室だ。もう行かなきゃ。二人とも、授業サボっちゃだめだよ?じゃあね!」

「はーい」

明らかに戻る気のなさそうな二人を置いて、私は教室に急いだ。

恋とか好きとかじゃない。しゃべったこともないのに。人を好きになるって、そんな簡単なものじゃないと思う。きっと。
うん、今度校門で会えたら。そのときに話しかけてみるんだから。




「…恋だな」

「…恋だね」

「しっかし、あのとろい奴が運動部のマネージャーだと。…無理だろ」

「無理だね」


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