山羊の寝床 | ナノ

 *Prologue

「平和だなー…」

「ああ、平和だ…“凪の海”に出たんじゃねえかと疑う位に平和な海だ…」

「昨日島を出てからずっとこんな調子だと、なんか調子狂うよなあ」

「ああ、いつも船長の占いのおかげで悪天候には前もって覚悟できるけど、これだけ平和じゃなー…」

「ははは、嵐の前の静けさってやつか」

「その嵐だって、船長なら普通に占えるだろ。たぶん」

「確かに。ああ…でも平和が1番だよなあ」

2人の男が談笑しながらあたりを見渡すと、真っ暗な海と空がどこまでも広がっている。頭上を見上げれば数えきれないような星が輝いているが、それ以外の灯りはどこにも見えない。
と、思ったら背後から小さな灯りが近づいて来る。

「……今夜の“敵との遭遇”0%……」

「お、噂をすれば船長だ」

手に持つ燭台の灯りを受けて、彼の金色の髪がキラキラ光る。
2人の男…今夜の不寝番の船員のことは彼も気付いているようだったが、特に声をかけるでもなく空を見上げている。
それもいつものことなので、船員は気にせずにまた見張りの役目に戻って海に目を向けた。
…ただし、彼らは船長の言葉に絶対と言って良い信頼を寄せているので、敵との遭遇する可能性が無いなら見張りは無駄と言って良いのだが。

「……今夜の“敵との遭遇”0%…………だが、」

もう船員は彼の言葉を聞いていない。
だが元より誰かに聞かせていたわけではなく独り言のようなものなので、彼は構わずに空を見上げながら口を開く。

「近いうちに、“何かとの遭遇”……100%……」

彼は疑わない。そう結果が出た以上、この先に自分は、いや、この船は間違いなく“何か”と遭遇する。ただし敵ではない、何か。
彼の視線の先、満点の夜空で、星がまるでまばたきするように瞬いた。



「どこにでもある、平和な平和なひとときを悪魔は食す」



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