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夜空に響く笑い声。
ガレーラカンパニー本社裏のプールで開かれたお祭り騒ぎは、ハルアの帰りを祝うものだったはずがいつの間にかただの酒宴に変わり、主役が騒ぎの輪からはずれても、気付ける者は少なかった。
そのハルアは今はブルーノの傍で、彼が一通の手紙を読む姿を待つようにじっと立っている。

『追伸:七武海にはマジで注意してください。』

「………」

「何て書いてありました?」

「いや、あー、むこうでもハルアが良い子だったと…」

ブルーノが目を通していたのは、クザンが別れ際にハルアに渡したという手紙。
なにやらCP9の誰かに渡すように言われたらしく、たまたま思い出した時に近くにいたブルーノがその役目を負った。

なんとなく予想はしていたが、素っ気ない便箋に書かれていたのは脅しとも取れるような警告の文章。
次は無い。
お前らの変わりはいくらでもいる。
あの子は聖地でも上手くやっていける。
…つまりは、今度ハルアを傷付けるようなことがあれば、俺たちの元から取り上げたうえ、俺たちもただでは済まさないと。

勘違いではない程度に感じる冷気が、この手紙を書いた男がいかに本気であるかをうかがわせる。
インクで書かれた一文字一文字に覇気でも込めたのではないかと疑う程の手紙から感じる圧力に、ブルーノは思わず手紙を握り潰しかけた。

物騒な言葉が並んだ手紙だったが、なぜか最後の『追伸』だけが敬語。
七武海に注意。
それはどういった意味で?と聞きたくなったが、すぐに思い直した。

「ハルア、むこうで七武海とも会ったか?」

「はい!とっても良くしていただきました!」

「…そうか」

言うまでも無かった。
俺たちのようにハルアにほだされた七武海に気を付けろ、と。

「ハルア〜!主役が何やってんだー!?」

「パウリーさ、ひゃあ!」

クザンからの手紙にブルーノが眉間を押さえていると、その空気をぶち壊すように乱入者が数名。
すっかり酒に飲まれたパウリーたちに、あっという間にハルアが掻っ攫われて行く。

「こら酔っ払いども、絡むなら他の奴らにしておけ」

「固いこと言うなよブルーノ!無礼講だ無礼講―」

まあハルアの帰りを祝うパーティーなのだから、ある程度騒ぐのは構わない。
だが、船大工たちは酔っ払うと普段にまして豪快(色んな意味で)になる傾向にあり、今もなぜか数名でハルアを胴上げしている。わっしょいじゃない、わっしょいじゃ。

『次は無い』

次を起こす気などさらさら無かったブルーノだが、どうにも怪しい雰囲気になってきた。
船大工たちがハルアに絡むのはいつものことだが、酔っ払っている状態では何があるか分かったものではない。

「クルッポー!お前ら何してる」

「お、ルッチー!お前も入れ入れ!」

「おい、待て…っ」

止めに入ったルッチの姿に安心したブルーノだったが、その安心も例外無く酒に飲まれてたタイルストンによって砕かれた。
ルッチのサスペンダーを大きな手で掴んだかと思うと、ウオオオオオオ!と御馴染みの雄叫びを上げながら空中へ全力投球ならぬ全力投人。空中に投げ出されながらもくるりとルッチが空中で態勢を整えた瞬間。

「ひゃああああ!…って、ルッチさ、あぶなっ!」

「っ!?ハルアっ」

ごんっ

どさっ

「「「「………」」」」

場が、静まり返った。
特にブルーノはもはや顔面蒼白。

タイルストンの手で投げ上げられたルッチは、パウリーたちに胴上げされていたハルアにものの見事にクリーンヒット。
とっさにルッチが腕を伸ばしたものの、2人の頭は良い音を立てて衝突。そのまま地上に落下して胴上げメンバーに2人揃ってキャッチされた。

避けようと思えば月歩を使うこともできたが、あいにく今は任務中。なすすべも無く衝突した2人はさっきから動かない。

「……(はっ)ハルア!!」

「(はっ)やべえ固まってた!ハルア−!」

やっと我に帰ったブルーノが声を上げれば、胴上げメンバーたちも一気に酔いが醒めて慌てだす。
2人の体を地面に下ろして名前(ハルアだけ)を呼べば、片方がむくりと体を起こした。
だが、何かがおかしい。

「…ちっ、覚悟しろこの酔っ払いどもが…クルッポー!」

「…え?ハルア?」

「そうだ、ハルア…!大丈夫かっポー!」

さっきから腹話術で鳩語(?)を使用しているのは、なぜかハルアだった。
言葉遣いは荒く、裏声なせいで声は妙に高い。
それでもその声は間違いなくその小さな体の持ち主のものなわけで。

「…待て、俺が2人…?」

ハルアが自分の隣で横たわる男の姿を見て、“俺”と。
ブルーノは目の前で起こっていることに激しく頭痛を覚えながら、横たわったままのルッチの体をゆすった。

「ん…あ!大丈夫ですかルッチさ、あれ?」

ぴょこんと飛び起きたルッチは、隣に座るハルアに気付いて首を傾げる。
そしてブルーノに向き直り、なぜか可愛く聞こえる低い声でこう言った。

「ブルーノさん!ぼくがもう1人いますよ!」

「ああうん…とりあえず落ち着け俺…」

腹話術を使わずに敬語で話すルッチ。
男言葉と鳩語を使い目つきの悪いハルア。

中身が入れ替わったらしい2人に、周囲はただ黙りこむだけだった。

「ウオオオオ!よく分からんがすまん!!」

「「「…………」」」

…ただ、豪快に笑って頭をかくタイルストンを除いて。


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