芋虫人生論-1 [ 38/40 ]

結果だけ簡潔に言うなら、現れなかった。
どこに、何がと聞かれたら、夜のブルーノズ・バーに、嵐が。ではなくドフラミンゴが。

七武海が来るから店を休むとは言えるわけが無かったが、壊された扉の横に「店内修繕中」とだけ書いておけば、皆適当に解釈して帰って行った。
CP9のメンバーはと言うと、ドフラミンゴのせいで昔のことのように思えるハルアのバースデーパーティーのためにほぼ不眠ではあったが、それぞれの日中の仕事を終えても、こんな時に寝てられるかと閉店中のバーの店内でただじっと彼を待っていた。

そんなピリピリした彼らに混ざってハルアも待機していたが、就寝時間がきた途端にブルーノに2階の自室に押し込まれ、その上カクを扉の前に見張りに立たされるという弾き出しをくらった。
自分も起きて待っているといくら言っても、「いいか、下でどんな音や声が聞こえても降りて来るな」と厳しい顔で言われてドアを締め切られてしまった。試しにドアノブを少し捻ってみたが、見張りに立つカクにコラ!と叱られてしまった。
中央街の住人たちや酔っ払い、野良猫の気配にまで警戒しながら過ごす夜はCP9にとっては珍しくない、むしろ慣れた時間だったが、それでもドフラミンゴの気配は微塵も感じられなかった。

で、現れなかった。
ここまでしたのに現れなかった。

窓の外が明るくなり始めたところで、ようやく緊張の糸を切ったブルーノが、2階のカクを含めた4人分のコーヒーを淹れ始めた。誰か持って行ってやれと声をかけようとしたら、そのカクの声が2階から聞こえた。

「やられた!!」

ドフラミンゴは“現れなかった”。
けれど“来なかった”訳ではなかったらしい。


+++++++


「……って!……ーのよ、もう!」

「……んう…?」

いつもはブルーノも呆れる程の寝坊助のハルアだが、何やらひどく焦ったような女性の怒声を聞いて目を覚ました。
見慣れない天井、照明。しかしぼんやりした頭では「お布団ふかふか…」くらいしか考えられず、ごろりと寝返りをうつ。

そして目に入ったのは、酒瓶、酒瓶、たまに皿や何かのゴミ。そしてそれらに隠れるように、女性物の際どい下着。

「!!!!!!!?」

「シャワーくらい良いでしょ…押さないで!!って言うか服くらい着せ…ちょっと!!」

「アーアー、てめえが騒ぐから起きちまっただろうが。良いから出て行け。しっかり前払いで取ったろ?フッフッフッフ」

やたらと肌色の多い視界にすぐに目を閉じたが、その寸前に女性と衣類を扉の外へ放り出すドフラミンゴを見てしまった。彼の方はきっちり、と言うには開襟が過ぎるが服はしっかり着ていた。
それだけ認識している間にも、女性の怒りをまき散らすような足音は、すごい速さで離れて行く。仰天して声をかけたボーイを容赦なく突き飛ばしていくその勢いに、さすがにハルアも後を追うことを諦めざるをえなかった。

「ド、ドフラミンゴさ…」

「フフフ、よーく寝てたなあハルアちゃん。傍で騒いでもあれだけ起きねえと萎えて仕方なかったがな」

「!!!!!!!?」

「ンン?さすがのハルアちゃんでもナニしてたかは分かるのか!オトコノコだもんなあフフフフ!!」

「そこに!!!座ってください!!!!」

ばん!!と床を叩いたつもりが、まだキングサイズのベッドの上だったので、ぼふん!!と間抜けた音がした。しかしそれどころではない。ひどい。これはひどい。
ニヤニヤしながら大人しくベッドの傍で正座したドフラミンゴは、床に落ちていた女性の髪飾りに気付くとゴミでも拾うように持ち上げて、ぺいっとゴミ箱に放り捨てた。もちろんホールインワンで。

「色々と…本当に色々と言いたいことはありますが…!!まずは」

「まずは?」

「人の物を、勝手に捨てちゃいけませんっ!!!」

「おおっとそこかよハルアちゃん!!」

なんてこったさすがハルアちゃん!と何故か嬉しそうに目元を手で覆うドフラミンゴを、またベッドをぼふん!と叩いて叱りつける。


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