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さすがは元3億以上の賞金首。
海賊を称賛する気はさらさら無いが、暗闇の中でサングラスが光を受けるまで、あんな派手の塊のような存在に気付けなかったのは事実。
その結果として自由を奪われた体は、渾身の力を込めても指すら動かない。悪魔の実の能力か、それとももっと他の力によるものか。興味は無くはないが、そんな!ことより!
「今の、ドフラミンゴさんの…舌、ですか?」
「フッフッフッフッ、聞くよりもう一回入れた方が分かりやすいだろ?」
「この……っ!そんな子供に何を…」
「子供ぉ?そうある前に“俺のおもちゃ”だろうが。黙って見てな保護者サン」
「むむむ、おもちゃじゃないですってば」
理解できていないようで、べーっと自分の舌を出してみて首を傾げるハルアに冷や汗が流れる。頼むから、その変態を煽るようなことはしないでくれ!!いやまず逃げろ!!
こんな時に思い出されるのは大将青雉からの手紙。
『追伸:七武海にはマジで注意してください。』
……正直な話、そこまで言うならあなたに『マジで注意して』こいつらを監視していてほしかったよ、俺は。
「ドフラミンゴさん、ブルーノさんを自由にしてあげてくれませんか?」
「フッフッフッ、そう言われてもなぁ、あんなに怖い顔されたんじゃあな」
「ここはブルーノさんのお店なんです。散らかったものも片付けなくちゃいけませんし、そろそろ街の皆さんも起き出しますよ」
「んん、確かになあ…」
「だから、まずは落ち着いて扉を直しましょう?ね?」
「まあ見られちゃあ色々と面倒か。…俺より、そっちがな」
あくまで立場は自分が有利だと示す目線に、歯をくいしばって応える。
この場においての強者はたしかにむこうで、こちらは全ての弱みを握られていると言っても良い。最悪、だ。
同じ政府に属しているとはいえ、むこうは所詮は海賊。俺たちの任務がどうなろうと知ったことではないだろうし、万が一そうなった時、処分を下されるのは間違いなくこちら側。
…いや、処分を下される、ではなく、処分されるのだ。政府に、闇へと。
そして何より、あいつの手にはいまだにハルアが。
「…分かった。俺はお前には手を出さない。だから」
「物分かりが良いと助かるぜ保護者サン。って言っても俺より年下か」
「ええええ!?ドフラミンゴさん、ブルーノさんより年上だったんですか!?」
「……ハルア……」
…いや、俺も少しばかり驚いたが…。
ドフラミンゴの方は笑顔のまま一瞬動きが止まったと思ったら、耐え切れなくなったように高笑いをしだした。
ハルアはいつものように空気をぶち壊して緊張の糸を叩き切った自覚が無いらしく、のけぞるように笑い続ける男をきょとんと見上げている。いや、出来れば今の内に逃げて欲しいんだが!
「フフ…フッフッフッフッ…!ああ、やっぱりそうこなくっちゃなあハルアちゃん」
「え?え?お、おかしなこと言いましたか?」
「可愛いハルアちゃんにはご褒美兼お仕置きだな」
「やめ……っ!!」
「そうですねえ、ご褒美をいただけるなら、ブルーノさんを動けるようにしてあげてください」
「「は?」」
「お仕置きは、出来れば痛いのはヤです…」
「ハルアちゃん、人身御供かい?」
「ひとみごくう?…えっと…?」
…分かってやってるのか、本当に天然で言ってのけたのか。
今の発言では、どう考えたって『自分はどうなっても良いから』に聞こえる。…冗談じゃあない!!
「可愛い可愛い俺のハルアちゃん、健気も良いが嫉妬しちまうぜ?」
唇への触れるだけのキスに、ハルアがきゅっと目を閉じる。
それを眺めるドフラミンゴは、サングラスで隠れた目で視線を逸らさない。ちなみに俺もいまだに動けずにいるので視線を逸らしようが無い。
「ハルアちゃん、目ぇ開けてみな」
「はい…?わ!」
言われるがままに目を開けたハルアに噛み付いて、いきなりのことに驚いたハルアの歯と奴の歯がぶつかったらしい嫌な音がした。そのことにも驚いて目を見開くハルアだが、片やたいして気にしていない様子のドフラミンゴが片手をハルアの後頭部へまわす。
かちり
今度はサングラスの当たる音。
……結局、俺を自由にする気は無いのか!!
「クルッポー!!」
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