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先日、うちの甥っ子がなぜか猫になった。

先日と言っても2日前。
もちろん本当に猫になってしまった訳ではなく、動作が猫らしいと言うか何と言うか。
うちの甥っ子はどちらかと言えば仔犬みたいなもんだと思っていたんだがなあ。

まあハルアであることに変わりは無いんだが、それだけにいきなりの変化に保護者としては違和感を感じずにいられない。

問題の猫らしい動作と言うのが、あれだ。

「クルッポー、ハルア…」

するっ

ハルアの頭に手を伸ばしたルッチの手は、ひょいと避けられてなぜかハルアの手に捕まった。
頭を撫でるつもりが握られてしまった手に、ルッチがもう片方の手で再挑戦しても結果は同じ。
あいつだけでなく、カクもパウリーもカリファもアイスバーグも、他の奴らもダメだったらしい。
……そして、俺も。

「…ハルア」

「はい、なんでしょう?」

不服そうなルッチが名前を呼んでも、にっこり笑って聞き返されるものだからそれ以上は何とも言えないらしい。
今度はカクが背後から抱き上げようと試みたが、これまたするりとその手から逃れて行く。
“逃げている”と言うには控えめに。“避けている”と言うよりは和やかに。ひょいひょいと移動する様は気まぐれな猫のように見えた。
2日前からこんな調子で、尻尾を振って嬉しそうに笑う姿はどこへやら。

頭を撫でる・抱き上げる・手を繋ぐ・甘いものを与える

…今のところ分かっているのは、これらのことをハルアが拒みだしたこと。
いや、拒むと言うか…ううむ…。はっきりと「嫌です!」と言われたり拒絶されたりはしていないが、あからさまにかわされている。

そしてその代わりと言わんばかりに、店の手伝いや家事に精を出しているらしい。
妙にはりきった様子で酒を運び、元から真っ直ぐだった背筋はよりしゃんとしている。前の様子を言い表すなら“ぱたぱた”で、今は“きびきび”と言ったところか。

「ハルア−、こいこい」

「はーい、カクさんどうしました?」

「てい(がばっ)」

するり

「むっ(がばっ)」

するり

諦めの悪いカクがまたちょっかいを出しているが、結果は変わらず空振りばかり。その様子をルッチやパウリーたちも見守っていて、なにやら次は俺だいや俺だと言い合っている。アホか。
しかし俺としてもスキンシップが減るのは寂しい。年齢と共に減って行くんだろうか…と漠然とは考えていたが、まさかこんなにもいきなり反抗期(仮)が来るとは思いもしなかった。

「ええいこの!(がばっ)」

ぱしっ

「ンマー、隙ありだ」

「「!!」」

あ。
頭に伸ばされたカクの手を握ることで防いだ瞬間、いつの間にか背後に忍び寄っていたアイスバーグが一瞬でハルアの腹に腕をまわした。
くわっと目を見開いたルッチは置いておいて、ハルアの足がふわりと床を離れた。

「ひゃあっ!」

「アイスバーグさん!ワシが挑戦しておったのに!」

「ははは、悪いなカク。良いタイミングだったんでついつい手が出ちまった」

したり顔でハルアを抱き上げたアイスバーグに、店内中から小さくおおっと感嘆の声が聞こえた。船大工たちもハルアの変化には気付いたらしい…と言うか、きっとガレーラの方でさんざんルッチが挑戦しては逃げられてたんだろうな。
しかしとうとう捕まったハルアに、さてここからどう出るのかと客たちは興味を示している。

「ハルア、俺が勝ったんだから何かご褒美でも無いのか?」

「なに!そんなの聞いておらんぞ!それならもっとワシも本気を…出して…」

…?
ニヤニヤ笑うアイスバーグに文句を言うカクが、言葉の途中で表情が固まった。
何だ何だとカウンターから少し身を乗り出して見てみると、2日ぶりに誰かに抱き上げられたハルアは…。

「………(しゅん…)」

まさに、しゅん…と聞こえてきそうな悲壮感。
切なげに垂れた犬耳と尻尾が見えるのは俺だけか。いや見えてるだろ、あれは見えてるだろ。
よく分からない形で犬に戻った(?)ハルアは、アイスバーグの腕の中で見ているこちらが申し訳なくなってくる程にしょげていた。

「あー……うん…すまん…」

これにはさすがにカリファが手を焼くほどの自由人も謝罪の言葉が出た。
たぶんあれは俺でも謝る。絶対謝る。あんな顔をされて、誰か平然としていられるか。いるなら俺は殴るぞ。もう一度言う。殴るぞ、俺は。

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