芋虫人生論-2 [ 39/40 ]

「ここは…ホテル、ですよね?」

「ああ、ハルアちゃんが紹介してくれただけあって快適だぜ」

「ぼくは自分の部屋のベッドで寝たと思ってたんですが…」

「フッフッフッフ!そりゃあ不思議なこともあるもんだ。寝てても俺に会いたかったのかい?」

正座を崩していっきにベッドの上に這い上がり、お互いの鼻がぶつかる寸前まで距離がつまる。ドフラミンゴはじいっと相手の目を見つめるが、ハルアの方は色の濃いサングラスのせいで、そこに映る自分の顔を見るしかない。

むう!とむくれる唇をべろりと舐めた次の瞬間には割って入ろうとする舌に、ぼふん!とまたベッドを叩く。

「ドフラミンゴさん、さっきも言いましたけど、言いたいことがい〜…っぱいあるんですよ?」

「それなら俺にも山ほどあるが、まあまずはちゅーしようぜ」

「違います!」

「ン〜?じゃあハグから始めようか?」

「まずはゴミ箱の中の髪飾りを拾って下さい!」

「まだそれ引っ張るのかいハルアちゃん!!」

ドフラミンゴが大げさな手振りで呆れて見せても反応無し。
ため息を吐きながらゴミ箱まで歩いて行き、中からさっき投げ入れた髪飾りをつまみ出してデスクの上に置いておいた。
OK?と確認のつもりでハルアの方を振り返ると、やっとこの日初めての笑顔が。

「フフフフ!ちゃんとできたなら褒めてくれよ」

すぐさまベッドに戻って来て、ハルアの肩に短髪の頭を押しつけてくるドフラミンゴに、おもわず「ぐっぼーい!」と頭を撫でそうになったが、これでは犬だ。ただの大型犬扱いだ。

「むむむ…いいこいいこ…?」

「おいおいなんで疑問形なんだよ」

「すいません、どう褒めれば失礼じゃないか考えちゃいました」

「なんだよじゃあご褒美にちゅーしようぜ」

「あ、そこに戻るんですね」

今度は有無を言わさずに勝手にキスの雨を降らされては、もうお手上げ状態でされがまま。
考えてみればハルアが起きたのはついさっきのことで、数分の間にビックリしたり叱ったり褒めたりキス攻めにされたりと忙しすぎた。誘拐から始まる寝起きドッキリなんて質が悪すぎる。ものすごく今更な話だが、ドッキリを通り越してただの犯罪である。

「ああそうでした!ブ、ブルーノさんたちに連絡を…!!」

「心配ねえさ。保護者サンたちもハルアちゃんが俺といることはちゃんと知ってるぜ」

「え?そうなんですか?それなら大丈夫ですね」

全然まったく大丈夫じゃない。
確かにブルーノたちは「ハルアがいない=ドフラミンゴの仕業=一緒にいる」ことは知っているが、肝心の「どこにいるか」は知らない。

「アア!そうだった、俺としたことがすっかり忘れちまってた!」

「???」

「少し過ぎちまったが、ハッピーバースデイハルアちゃん。ちゃあんとプレゼントも考えて来たんだぜ?」

「え!ぼくにですか?」

「フフフ…他に誰にやりゃあ良いんだよ」

あわあわしながらも何度もお礼を言うハルアを横目に、なぜかドフラミンゴは今自分たちがのっているベッドの固さを確認している。大きな掌でマットレスをぐいぐい押すと、スプリングがギシギシ鳴いた。

「…何してるんですか?」

「床の方が良さそうだな」

「ドフ、ひゃあっ!?」

ころんと転がされてベッドに倒れ込み、もう一度ころんと転がされて床に落下した。柔らかく毛足の長い絨毯のおかげで怪我はしなかったが、何が何だか。プレゼントをもらえると思ったら、ころころされて床に落下。もう本当に何が何だかとしか言いようが無い。しかも犯人は笑いながら、床にうつぶせになるハルアのすぐ傍まで近付いてベッドに腰掛けている。
顔を上げてみれば彼が見下ろしている。さすがのハルアでも嫌な予感しかしない。

「誰だって人生は楽しい方が良いだろ?」

「そ、そうです…ね…?」

「だがなあ、今のハルアちゃんはそれに必要不可欠なものが欠けてる。何か分かるかい」

まずい
本能なのか何なのか、意味も分からずハルアの脳内で警鐘が鳴る。何だかよく分からない。でもこれは、まずい。やばい。

とにかく今のうつぶせの状態をどうにかしようと立とうとすると、ダン!と床に縫いとめられた。背中に乗せられたのは、横目で確認するにドフラミンゴの片足らしかった。
パジャマにしているTシャツの上から、靴の爪先が背骨をなぞるようにつたう。

「ど、土足ですかドフラミンゴさん!」

「こんな状態でも可愛いおバカなハルアちゃんが好きだぜ俺は。そんなハルアちゃんにバースデープレゼントだ!」

「すすすすいませんちょっと待ってください!ドフラミンゴさんの言ってることと今の状況が結びつかな…」

「フッフッフッフ、人生楽しい方が良いだろ?」

「そ、それはさっきも聞きました…!」

「なら思う存分!怒って泣いて喚いて叫ぶくらいのことは出来ねえと!」

「え、な、えっ」

「人生の先輩が言うなら、負の感情の無い人生なんてクソだぜ、ハルアちゃん」

ドフラミンゴの冷たい靴底が、一瞬ハルアの背中から宙に浮く。ほんの、一瞬だけ。



人生論を説く芋虫なんて狂ってる



昨晩
「ふふふ、お相手するのにこんな立派なホテルに来たの初めて…ってあら?ベッドに誰かいるの?」
「フッフッフ、触るんじゃねえぞ」
「お連れさんと喧嘩でもしたの?それであてつけに寝てる傍でだなんて酷い人…って……え?」
「むにゃ…」
「………ちょっと」
「可愛いだろ?フフフ、フフフフフ…!!」
「(見た目以上にやばいかもしれないこいつ)」



あとがき
ゲーッスゲスミンゴ!(♪某笑顔動画風に)
筋金入りの熟睡っ子の少年と、また訳分からないことをやらかして、訳分からないことを言い出したドフラさん。この人きっと何回か夜道で女性に背中刺されてるんじゃないかしら…!
管理人:銘


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