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「っつ、ああ?」

突然だった。

2人を見つめるしかない俺の隣を、何かが空を切って横切って行った。
視界の端にとらえた白に、まさかと思えば。

まさかの、まさかか!!

「ハットリ!?」

ドフラミンゴの頭上に何かを落としたハットリは、旋回して俺の背後へ戻って行く。今のハプニングで俺の拘束もとけたようで、振り返ろうとしたが勢い余ってふらついた。
ドフラミンゴの方はハットリに落とされた何かが頭にぶつかる前にキャッチしたが、それが俺たちが留守の間に空にした酒瓶の大きな破片だと気付いた。
破片と一緒に落ちたタグには、“ロブ・ルッチ”の走り書き。

いきなり拘束が解けた体で床に座り込んでしまい、感謝と謝罪と、もっと早く来いこの野郎とやつ当たりな意味も込めて、傍に立つ男を見上げた。
入り口に立っているために逆光を受けるルッチは、冷え切った目で店の奥を見ている。

「狗…いや、海の屑には似合わねえ酒だったろう」

「フフフフ、そう言うなよ。狗同士仲良くやろうぜ」

「っはあー…ルッチさん?」

「ハルア、こっちへ」

油断なく相手を視線で牽制しながら差し出された手に、するりとドフラミンゴの腕から抜け出したハルアが駆け寄ろうとしたように、見えた。
…が、かくん!とルッチの手前で折れて、なぜかカウンターのむこうへ。

「「「………」」」

俺たちはもちろん、ドフラミンゴもその様子を目で追っている。
3人分の視線を受けながら、ハルアがカウンターから出て来たと思ったら、その手には救急箱。そして向かうのは…ついさっきその手から逃れたばかりの男の元。…おいおいおいおい…。

「はい、その破片放してくださいね。消毒液とー絆創膏とー…」

………………うん…。これは後できつく叱っておくべきだろうか…?
瓶の破片を受け止めた手は、小さな切り傷を作ってしまったらしい。大人しく破片をぺいっと投げ捨てたドフラミンゴは、やはり大人しく絆創膏の巻かれる指をじっと黙って見ている。
黙っている、と言えば、ハルアに差し出した手をそのままに黙っているルッチを盗み見て…後悔した。見なければ良かった。呆れているか怒っているかしていると思っていたのに、一切の感情を感じない、まさに無表情の顔で口を閉じている。ゾッとして思わず目を逸らしてしまった。

「ブルーノ。これはどういうことだ」

「いや、あの子は天然と言うか優しすぎると言うか」

「バカヤロウ。なぜ奴がここにいるのか、だ」

あ、ああ。そっちか…。
しかしそんなことを聞かれても、こっちだって何も分かっていない。避難所から帰ったら、勝手に奴が嵌め戸を無理やりに外してまで侵入していた。しかも店の中を荒らして酒まで飲む始末。しかも運悪くルッチの取り置きのボトル。(…まさかとは思うが狙ってやったか)どこの空き巣だお前はと言いたい。事実のままにルッチに言えば舌打ちされた。俺に当たるな、俺に。

「大丈夫ですか?絆創膏きつくないですか?」

「とりあえずお前はこっちに来い!!頼むから!!」

「わ、わ、ちょっと待ってくださいね、ドフラミンゴさんこっちの手にも怪我してるじゃないですか!」

「放って置け!離れろハルア!」

「ひゃああすいませんブルーノさん、でも消毒だけでも…!」

本…っっ当にこの子は!!
声を荒げながら名前を呼んでも手招きしても、あわあわとこちらとドフラミンゴの手を交互に見ながら慌てるばかり。ドフラミンゴの奴はこの状況が面白くて堪らないらしく、片手で顔を覆って肩を震わせている。ちゃちゃを入れられないだけマシだが、笑ってないで帰れお前は!!

「はい、ちゃんと巻き終わりました!」

「フ、フフ…ック、フッフッフッフッ…!!」

「さりげなく爆笑するな!ハルアもいい加減に…!!」

「ハルア」

「!」

ぴんっ!とハルアの背筋が伸びる。その様がまるで主人に名を呼ばれた犬か何かの様にも思えたが、一瞬にして凍った空気の中では笑うことも出来ない。今まで極力言葉を発しなかったルッチが、いつの間にやら腕を組んで仁王立ちになっていた。

「来い」

手招きも何も無い。言葉だけの命令に近いそれに、ハルアが驚くほどの速さで救急箱を片付けてルッチの元へ駆けつけた。…片付けをちゃんとするあたりハルアらしいと言うか何と言うか。いまいちシリアスなモードになりきらないな…。

「お待たせしました。おはようございますルッチさん」

やっとこちらに来たと思ったら、真剣な顔でぺこりと頭を下げるハルア。

…ちょっと俺は今から保護者としてこの子には似合わない言葉を言うぞ。俺だってこんなことをこの子に言う日が来るとは思わなかったが、今のはさすがに…。

「…ハルア、空気を読め」

「!!!?」

「ック、フ…ッフッフッフッフッフッ!!!」

「爆笑するな!帰れお前は…っ!!ルッチは構えるな!暴れようとするな!!」



真のクラッシャーはどこだ!



「ンマー、ルッチの奴いつの間に帰ったんだ?」
「ハルアに報告するって出て行ったわい」
「あいつらしいな…。さて、そろそろ動き出すか」
「まだ少し時間があります。コーヒでもどうですか」
「さすがカリファ。カクも飲んで行くか?」
「いや、わしもハルアの所にひとっ走りしようかの!」



あとがき
空気をぶち壊す人(故意に読まない)
空気をぶち壊す人(天然)
物をぶち壊す人(物理的)
クラッシャーがいっぱい。どれがどの人かなんて言いませんとも、ええ。
管理人:銘


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