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「こ、ここで、うわあ!!」

自分の上にいる子供たちをぶってしまわないように気を付けながら腕を伸ばすと、すぐに掴まれたと思えば、腰にしがみ付いたままのチムニーとゴンベのおまけ付きで、引き抜くようにして波間から救助された。

やっと開けた視界に映ったのは、ごちゃごちゃの団子状態になってしまった子供たちを起こすガレーラのメンバーと、自分の腕を掴んだままのルッチ。

一瞬、ほんの一瞬。
ハルアの脳裏によぎったのは、襟首を掴まれて投げ飛ばされた時の浮遊感。
はっとルッチの顔を見上げると、いつも通りの無表情ながらも熱い視線とかち合った。…ただし、雰囲気は少しばかり不機嫌なようだったが。

「クルッポー!ハルア、怪我は…」

「あ、」

恐怖を感じた訳ではない。不快に思った訳でもない。
ただ単純に思い出しただけだけだったが、咄嗟にハルアが取った行動はルッチにしがみつくために腕を伸ばすことだった。
しかし腹話術の声で我に帰り、タンクトップに触れかけた手は即座にひっこんでしまう。
…さて今の行動について、何と説明すべきか…と、すっと細められたルッチの目に焦って頭を回転させる。

「あのですね、えっと」

「おじさんの鳩しゃべるの?」

「!!!!!」

おじさん
その単語にルッチ(24)の無表情が崩れることはなかったが、代わりにハルアが固まる。そんなことを知らないチムニーはハットリに興味津々で、やっとハルアの腰から腕を解いた。

「チムニーちゃん、ルッチさんはおじさんじゃなくてお兄さんですよ」

「ルッチ?おじさんルッチって言うのね」

「チムニーちゃん…!」

「…クルッポー、お前はたしかココロばあさんのところの」

「あれ?お知り合いでしたか?」

「ばーちゃんはアイスバーグと飲み仲間なの。1回だけ会社にも連れてってもらったのよ」

市長を平然と呼び捨てにしながら、自慢げに胸を張ればゴンベも同意するように鳴く。
内心ヒヤヒヤしながら見守っていたハルアだったが、ルッチは特に気にするでもなく肩の相棒を撫でている。

「そう言えば、あたし兄ちゃんの名前聞いてなかったね」

「ぼくはハルアですよ。少し前にこの街に来たばかりなんです」

「ふーん!よろしくねハルア兄ちゃん!あとルッチ!」

子供らしい満面の笑みで手を挙げるチムニーに苦笑して、ルッチお兄ちゃんじゃダメですか?と聞くと、元気いっぱいに、ルッチはルッチで良いの!と返事が返ってきた。
参ったように、ルッチが機嫌を損ねてはいないかと顔色を窺うと、予想外に彼の纏う雰囲気から不機嫌さが消えていて驚いた。むしろ何か嬉しいことがあったかのように見える。

「(もしかして呼び捨ての方が嬉しいんでしょうか…)」

「お、いたいた。おーいこっちにハルアいたぞー!!」

もちろんルッチが喜んだのは呼び捨ての方ではない訳だが、また若干ずれた方に勘違いしたまま真剣に考え始めると、パウリーの声が割って入った。

「なんだなんだ、託児所になってんのかここは?」

「あ、こっちは知ってる!パウリー!」

「お、ココロばあさんとこの孫か」

大人たちの手によって、なんとかさっきの雪崩から全員立ち上がったらしい子供たちを掻き分けるようにして近付いて来る。
それを見たルッチは、とん、と軽くハルアの背を押した。

「ルッチさん?」

「なんとか避難の方も落ち着いたらしい。遅くなったらこいつ寝ちまうから、もう始めるってよ」

「クルッポー!ああ。さあ、ハルア」

パウリーはルッチと何やらハルアには意味が分からない会話をすると、くるりと踵を返して今来た方向へ歩き出す。
なんだなんだと、やはり分かっていないらしいチムニーと顔を合せていると、また背を押された。

「行けば分かるっポー」

「あたしも行って良いー?」

少し考える素振りを見せ、構わないと頷くルッチに、チムニーはきゃあと嬉しそうに笑ってハルアの手を握った。その流れで、ハルアもルッチの手を握ろうとして手を出し、あ、と思い出してから誤魔化すようにタンクトップの裾を握った。

「早く行こうよー。ルッチ案内!」

「にゃーにゃー!」

「そう急かすなっポー」

そのまま歩き出したルッチと、何があるのかは分かっていないが楽しそうなチムニーとゴンベの間で、むむむ!と1人難しい表情を浮かべて、先を行くパウリーの後について歩いた。
しばらく行けば避難所の壁に辿り着き、そこにあったドアを開けると通路が。

「どこへ行くんでしょう…?」

かつん、と3人並んだままで通路に踏み入ると、ひんやりと冷たい空気が頬を撫でた。その空気に乗って、なにやら良い匂いが漂っている。

先を歩いていたパウリーが、通路のむこうの扉に手を掛けて3人を待っていた。



極秘ミッション進行中・ターゲット(+α)を連行せよ!



「にゃーにゃー!」
「あの、ところでゴンベさんって」
「なーに?」
「…えっと、猫さん、ですか?」
「そうだよ!ねーゴンベ」
「にゃーにゃー!」
「(何と言うか、うさ…むむむむ…!?)」


あとがき
半分ほど書き終ったところで、頭の中でゴンベがにゃー!!と抗議の声を上げました。このタイミングで出そうと思ってたのに忘れてた…っ!!
焦って書き足しながらいじっているうちに、今回で落ち着くかと思っていたのに次回に持ち越し。次こそは!次こそはあの人の影を!!
管理人:銘


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