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「すまん…うん」

「い、いえいえ!アイスバーグさんが謝ることなんて何も!ぼくが…」

ぼくが?
その先が気になったのに、それを遮ったのはルッチの肩から飛び立ったハットリだった。

「クルッポー!」

「どうしたハットリ…ああ、もう10時か」

俺の肩にとまって時計を示すハットリ。だいたいこの時間にはハルアは2階に上がるので、かしこいこの鳩は知らせに来てくれたらしい。うん、ありがたいんだが今は余計たぞ、ハットリ。

「あ、もうこんな時間なんですね」

「ああ。今日もお疲れ様」

「じゃあお先に失礼しますね。皆さんおやすみなさいです」

ぺこり!と客たちに頭を下げる姿に、はらはらと見守っていた男たちは、思い出したように手を挙げたり声をかけたりしてハルアを見送った。
去り際の背中も、どこかさっきのようなしゅんとした空気を背負っているようで手が出せない…と思っていたのに、懲りないルッチが手を伸ばす。

「クルッポー!ハルア、また明日…」

頬に手を添えて額に口付けようとするルッチに、避けられろバカがと思ったら、聞こえて来たのは小さなリップ音。
あ、それは避けないのか…と意外だったが、手を出したルッチ本人が一番驚いたらしい。ぎょっとした顔をするな。成功すると思わなかったなら最初からするな!

「おやすみなさい、ルッチさん」

少しだけ赤くなった顔で笑って、階段を上って行ったハルアを見送ったルッチはと言うと。

「………」

「無言で勝ち誇るな」

「拒絶されれば良かったのにのう」

「毎度毎度ハレンチだぞてめえ!」

このドヤ顔である。構ってもらえなくて不貞腐れていたくせに、いきなり調子を取り戻してふてぶてしくなったなお前。

「ええい!どれもこれもあいつらが悪いんじゃ!」

「…あいつら?」

こっちはまだ絶賛不貞腐れ中らしいカクが、ふん!と酒を一気に煽る。
何やら事情を知っているらしい発言に、自然と店内の視線がカクに集まった。

「なんだよあいつらって。ハルアがあんなのになってるのと関係あるのか?」

「どうもこうもないわい。あいつらがいらんことを言うたせいで、ワシはあれからハルアをだっこしとらん!頭も撫でとらん!手も繋いどらん!!」

ぎゃんぎゃんと喚くカクの頭を、それはお前だけじゃないと言う意味をこめてパウリーがどつく。それでもなおぶうたれるカクを促して、3日前の公園でのやり取りを聞き出した。

「それはまた…あいつなりのプライドだなあ」

「年下にガキくさいなんか言われたらなあ…。まあ、それをあそこまで気にするあたりは子供なんだろうけどな」

「わあああハルア!ぎゅーっとしたい!撫でまわしたい!いちゃいちゃしたい!」

また喚きだすカクの頭を今度はルッチがどついて、少しだけ店内が静かになった。
しかしこれで合点がいった。
公園でのチビたちとのやり取りでショックを受けたハルアは、それならばと大人になろうと背伸びを始めたのだろう。
俺から言わせればあんなしっかりした10歳の子供が他にどこにいると聞いてやりたいが、今はあの謙虚な子に何を言っても納得しそうにない。

「ンマー!ああ、それでルッチのキスは逃げなかったのか」

「抱き上げられたり頭を撫でられるのは子供っぽくて、キスはセーフか。そこがまた子供っぽいと言うか、なあ」

「なんにしても、ハルアが変わる必要があるとは思えないっポー」

ルッチの言葉に全員でうんうんと同意したは良いが、今回のことは俺たちがどうこう手を出して良いものか。
ハルアが子供っぽいと指摘されて悩むなら、それはあの子の成長とも言える。思春期には少し早く、反抗期とも言って良いのか微妙なところだが、少なくとも子供の成長の大事な通過点であることに変わりは無い。

「ハルアを構いたいのはワシらじゃろ?なんであの子が気に病まんとならんのじゃ」

「そこはお前、子供の世界なりの世間体だとかだなあ」

「それにあの時、ハルアはたしか『良い機会』とも言っておったぞ。1週間後までにとかなんとか…」

「1週間後?ああ、なるほど…」

壁に貼ってあるカレンダーを指さしてやると、ハルアがチビたちとのやり取りをした日から1週間後、つまり今日から4日後には花丸が。
ペンで小さく「11」と書か込まれたその日付に、店中で「あっ!!」と声が上がった。



まいりとるべいびーの有言実行



「そうか!そうか!もうそんな時期じゃったか…!」
「忘れてたのかっポー、兄貴分が聞いて呆れる」
「ルッチ、おぬしも『あっ』って言っておったじゃろう」
「俺なんか知らなかったぞ…!そうか、4日後か」
「ンマー…よし、カリファ!」
「はいアイスバーグさん」
「「「(こいつどこから出て来た…!?)」」」


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