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「……何がどうなってこうなった…」

「おせえぞバカヤロウ」

「すまんルッチ、その身体で見下すのは勘弁してくれんか」

フランキーハウスの中に一斉に突入したのは良いものの。
室内は、まさに死屍累々。
一瞬本当に死んでいらっしゃるのかと悲鳴をあげかけましたが、鼻につく濃すぎるほどのアルコールの匂いに悲鳴を飲み込みました。
…もしかしなくても皆さん、一人残らず酔いつぶれてます…?

「俺の体とハルアに何してやがるパウリー」

「いででで下ろす!下ろすから蹴るな!」

ぼくでは絶対にできなさそうな険しい顔でパウリーさんの足に蹴りを入れるルッチさんは、ちょっとビックリしてしまう程にいつも通りの様でした。
ぼくの方はろくに走れもしないのに、見事に小さな体に適応してふるまっています。
と言うか、ぼくにもこんなに難しい顔ができたんですねえ。
あ、眉間にしわ。
きゅっと結ばれた口に、少々据わった目。
自分の顔に言うのもなんですが、なんとも子供らしくない顔ですね。
ルッチさんの子供時代ももしかしてこんな風だったんでしょうか?

「おいルッチ、こいつらはどうやってここまで潰したんだ?」

「……じゃんけんには、自信があった」

遡ること数十分前。
フランキーによって誘拐されたルッチは、抵抗もむなしくフランキーハウスに担ぎ込まれることになった。
中に入った瞬間に何十何百ものクラッカーが破裂音を響かせ、視界は紙と花の吹雪で染められる。
おかえりー!と全く揃っていないフランキー一家の歓迎を受け、次々にがたがたとセッティングされる料理と酒。

「今晩はスーパーに騒ぐぞてめえら!ハルアにかんぱああああいっ!!!!」

フランキーによる開会宣言の次の瞬間には、その場にいたルッチ以外の全員が、杯やコップを掲げて喜びの声を上げた。

ルッチもここまでは良かった。
ハルアの愛されっぷりを再認識して少しだけ誇らしくも思ったが、酒が入ってからが彼の試練のスタートとなる。

「ハルアは今までどこに家出してたんだわいな?」
「おいハルアこれ食えこれ!」
「よくアニキを守ってくれた!」
「ハルアのほっぺたぷにぷにだわいな!」
「こら、ハルアに酒勧めるな!」
「はははは御触り禁止だろうがお前!」

ぷ っ ち ん

普通に声を掛ければ良いものを、誰もが必ず決まりごとのようにハルアの体に触れて行く。
ある者は肩を叩き、ある者は頭を撫で、ある者は頬をつつき。
それだけでも堪忍袋の緒が限界寸前だったルッチだったが、それだけで済まされないのが酔っ払いの性質。

手を握り頬を合わせ抱き上げ抱擁し顔を近付けられ。
誰かがふざけて尻を撫でた時点で、フランキー一家の立派な死亡フラグが建設された。

「お前ら…皆さん、ぼくと少しだけ遊びませんか」

…とっても楽しいことですよ?

ゆらりと音も無く立ち上がった小さな体は、ぐいっと髪をかきあげて顔を上げる。
手近にあった酒瓶を持ち上げて、彼は死神の笑みを浮かべてそう持ちかけた。

そこまで聞いて、ガレーラのメンバーは顔をしかめて周りを見回した。
周りに転がる死体もどきは、どれもこれも顔を赤や青に染めて気を失っている。

「じゃんけんにむこうが負けたら酒瓶一本一気飲み。こちらが負けた場合はジュース一気飲み」

「…それで、勝ちまくったわけじゃな?」

「当たり前だ。あんな奴らの出す物なんて口にできるか」

つまりは、無敗で一家全員を屍に仕上げたと。
ハルアの体であっても衰えなかった動体視力で、彼は大人げないほどに勝ち続けた。
急性アルコール中毒を起こす一歩手前まで攻めに攻めた彼は、ふん、と死体もどきたちを一瞥した後ハルアに歩み寄った。

「すまないハルア、こんなバカの棲家にやすやすと攫われてしまった」

「…!!(ぶんぶん!)」

「そっちは怪我はないか?…少し、汚れている」

「…!!(こくこく!)」

「ああ、それと」

ここに来るまでにハルア転んだせいでまだ汚れていたタンクトップを掃ってやって、シルクハットも手に取って軽く掃う。
そのシルクハットを頭には戻さずに、ルッチはハルアの横顔を隠すようにかざして見せた。

「さっきはフランキーに邪魔されたが、…こういうのもありだろう?」

「!!」

他からはシルクハットで見えないように、自分の顔にキスすることを不本意に思いながらも口付けようとしたが、うにっと阻まれたのは大きな手。

「…すいません、改めて考えると、自分とちゅーするのは、ちょ、ちょっとなんだか…」

「……」

他に聞こえないように囁かれた声は、ルッチでは絶対に出さない恥じらいと罪悪感の声。
ハルアのごもっともな意見に反論の言葉も出ず、いたたまれなくなったルッチはとりあえず傍に転がっていたフランキーの体を踏んでおいた。



小さな足は俺のものでなく



「ハルアも無事だったし帰るぞお前ら!」
「戻ってこっちのパーティー仕切り直しだ!」
「待て待て、子供にはもう辛い時間帯じゃろ」
「げ、もう日付変わってんのか!」
「じゃあハルアは家帰って風呂入って…あ」
「……(さてどうしよう…)」


あとがき
入れ替わり2つめ。まだしつこくちょっとだけ続きます。
管理人:銘


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