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広いグランドラインで随一の造船技術を誇る島、ウォーターセブン。
今日も空は晴れ渡り、ついさっきまで賑やかな金槌や鋸の音が島中に鳴り響いていた。
そう、ついさっきまで。

「ンマー、いきなり静かになったな」

「億越えルーキーの一人、ユースタス“キャプテン”キッドとその一味が船の修理の依頼に来たようです、アイスバーグさん」

「ああ?あいつらなら昨日出てったところじゃなかったか」

「そのはずですが…」

町の中心部にある造船会社ガレーラカンパニーの社長室で、社長兼市長を務めるアイスバーグは羽ペンを片手に首を傾げてみせた。
彼の言う通り、この島には昨日までキッド海賊団が滞在していた。

その滞在中に、とある用事でガレーラを訪れたキッド海賊団だったが、特に騒ぎになるわけでもなく宿へ帰っていき、その数日後(それが昨日)にこの島を出たはずなのだが。

なのにその彼らが今、またこの島に戻って来て船の修理を頼みに来たとは。

「なんじゃ、島を出てすぐ海軍にやられるとは災難じゃったのう!」

「うるせえ、黙ってさっさと直しゃ良いんだよ」

「いつもなら砲弾はキッドが弾き返すんだが、対策のつもりなのかテンポを乱されてな。
見事に大穴を開けられてしまった」

「余計なこと言ってんじゃねえぞキラー!!」

窓の外から聞こえてくる威勢の良い怒号に、傾げていた首を戻して納得した。
このウォーターセブンの周囲は、ガレーラが海軍御用達であることや海列車でエニエスロビーと繋がっていることから、どうしても海軍の戦艦や警備船が多く見られる。

昨日島を出た彼らもまあしっかりとそれに引っ掛かったらしく、更に砲弾による大穴までもらったらしい。(それでも彼らがここにいるということは、相手の海軍船は海に沈められたのだろうが)
いくら腕の良い船大工を乗せていようと、船の横っ腹に穴を開けられたとなると、限られた材料でその場しのぎに修理するよりも陸でしっかりと直した方が賢明な判断だ。

「あまり騒いでくれるな、海軍に突き出されたくはないじゃろう?…○○○以外」

「おいコラあいつ以外ってのはどういうことだ。あとやれるもんならやってみやがれ」

「落ち着けキッド、話が進まない」

「…その○○○は今日はいないのかっポー」

「…ああ?」

ちらほらと会話に登場する○○○とは、キッド海賊団になぜか所属する小さな少年のこと。
本人曰く“キッドのペット”らしく、その細い首には首輪まで巻かれているのを見た。
良い噂を聞かないキッド海賊団と行動を共にしているとは思えない程に汚れなく可愛らしかった○○○は、なにやらこの場にいないらしい。

ちなみに、前回キッド海賊団がガレーラを訪れたとある用事とは、街で迷子になった○○○を回収しに来た、というものだったのだが。
……まさか、今回も…。

「あんのガキャアアアアアア!!!!」

「心配ない、○○○には電伝虫を渡してある」

「それが入ってるあいつのカバンはてめえがしょってるんだろうがああああ!!」

「……違いない…」

まさかのまさかだったらしい。
窓の外からしっかり聞こえてくる、怒りを隠そうともしないキッドの声をアイスバーグが聞いていると、社の電伝虫がコールの鳴き声を上げた。
それを秘書のカリファが取り、一言二言会話した後にこちらを向いて一言。

「○○○君は***と一緒にブルーノズ・バーにいるそうです」


+++++++


「***、次は何すれば良い?」

「じゃあ型にバターを塗ってもらえますか?」

分かったー!と返事をする○○○に、いそいそとシフォンケーキ用の型を取り出す***。
場所はウォーターセブンの中心街に位置する酒場、ブルーノズ・バー。

キッドたちとはぐれて町を一人さまよっていた○○○は、この酒場に住む10歳の少年、***に連れられてこの場にいた。
実はこの2人、前回○○○が迷子になった際に初めて出会って友達となった間柄である。

迷子の○○○を***がガレーラに連れて行き、○○○を探すキッドたちが回収しに来るまでの短い時間ではあったが、2人は再会の約束をする程に打ち解けあっていた。
その時はお互い別れを惜しんだものだが、偶然なのか必然なのか、その数日後にまたこうやって再会することになった。

「今ガレーラに連絡を入れたが、キッド海賊団はやっぱりむこうにいるらしい」

「本当?ありがとうブルーノさん!」

「船の話を済ませたらこっちに来るらしいから、それまではゆっくりして行くと良いさ」

「じゃあそれまでにケーキを焼いちゃいましょうか。おみやげに持って行ってくださいね」

「良いの?***もありがとう!」

店主であるブルーノが店の奥から顔を出し、シフォンケーキを焼く準備をしていた***と○○○に声をかける。
それを聞いた2人はまたきゃいきゃいとケーキ作りに戻ったが、ブルーノはこっそりとため息を1つ。

買い物を頼んだ***が帰って来たと思ったら、片手には買い物袋を、もう片手には見知らぬ少年の手を握っていた。
…困ったと言うか、参ったと言うか。

今はこうやって酒場の店主として生活しているが、残念ながらそれは彼の表向きの顔でしかない。
ブルーノだけでなく、ガレーラで働くルッチ・カク・カリファの計4人。
それぞれが酒場の店主・船大工・社長秘書として生活しながら、全員が“闇の正義”をその身に纏っている。

世間には公表されない暗躍諜報機関、CP9。

そんな物騒な機関に所属する4人は、ある任務のためにこうして潜入しているわけだが、そこに混ざる1人の子供。
潜入前から給仕として可愛がっていた***を、彼らはちゃっかり任務にまで巻き込んでいた。
このウォーターセブンでも潜入前と変わらず(と言うか前以上に)可愛がっている彼らだが、一時も自分たちの立場と任務を忘れることは無い。


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