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水路の道を辿り、一際大きな門構えをしたガレーラにたどり着いた2人は、その門に群がる人の多さに驚いた。
いつも多いけど、今日はいつも以上に人が多い。
手を繋いだままポカンとしている2人の前に突如人が降ってきた。


「***、よく来たのぅ!待っておったぞ!」

『こんにちわカクさん!』

「ん?なんじゃ今日は友達と一緒か?」

『いえ、あの…彼は○○○さんと言って迷子さんなんですよ。』

「そりゃ大変じゃのぅ。ワシは船大工のカクと言うもんじゃ。」

『え、あ…オレ、○○○…。』


いきなり空から降ってきたカクと名乗った男は、キャップのツバを指で軽く掴み人好きのする笑顔を浮かべて○○○の視線に合わせてしゃがむ。
しかし、○○○としては突然空から人が降ってきた驚きと、カクの特徴ともいえる角ばった長い鼻に目が釘付けになり、上手く笑えていない。


それを怯えていると勘違いしたカクはポケットから棒付きの飴を差し出すと、○○○は途端に瞳を輝かせて***と繋いでいた手を離して飴を受け取り舐め始める。
そんな○○○の片手に抱えられていたお弁当を***がカクに手渡した。


『はい!カクさんとルッチさんのお弁当です。』

「おぉ、いつもありがとうな***。ルッチもパウリーも中におる。寄ってくじゃろ?」

『いえ、今日はこれから○○○さんの保護者さんを探さないと…。』

「ふむ。しかし、その肝心の○○○は飴に夢中のようじゃぞ?」

『え!?○○○さん!』

「わはは!素直で良い子じゃわい!」


話題の中心にいる○○○は丸で聞こえないかのように夢中で飴を舐めている。
そんな○○○に困ったように笑う***と、何故か爆笑するカク。


穏やかな雰囲気が流れていたのだが、突然○○○がピクッと何かに反応し、飴を口から離して目の前にいるカクの手と***の手を掴んでグイッと引っ張った。
突然の事に反応出来なかったカクと***は、○○○に引かれるがまま右に2、3歩移動する。
すると、今まで3人が立っていた場所に人が降ってきた(パート2)。


着地の衝撃でフワリと宙に浮いた黒いシルクハットを目で追う○○○。
獣の嗅覚でもって***の来訪に気付いたルッチが、何故か門を飛び越えて降ってきたのだ。
もはや呆れたように溜め息をつくカクを視界から省き、ビックリしている***を抱き上げ、幸せそうにギュッとする。


一方抱きしめられる事に慣れてきている***は、一つの違和感に首を傾げていた。
何か…何か忘れてる?
いや、さっきまで近くに…。

《バシャーーンッ!!》

『え?』

「ん?」

「?」


突然、水に何かが落ちる音がして3人がクルリと音のした方へ視線を向けると、黒いシルクハットが浮いていた。
いや、厳密に説明するならば黒いシルクハットは小さな手でギリギリ水に着かないでいる。
そう、小さな手で…。


次第に***とカクの顔色が青ざめていく。
慌てて辺りを見回すが小さな姿はなく、水路の近くに見覚えのあるリュックが置かれていて、気が遠退く。


『○○○さーーん!!!!』

「なんじゃ!○○○の奴は泳げんのか!?」

「○○○とは…誰だっポー?」

「説明は後じゃい!」

『カ、カカ、カクさん!ど、どうしましょう!○○○さんが…!』

「ルッチはカナヅチじゃからワシが行く!」


言うが早いか水路に飛び込み、今にも沈んでしまいそうな小さな手を掴んで引き上げた。
ゲホゲホと咳をする○○○は、その手にシッカリと黒いシルクハットを持っている。


しばらく小さな背を摩ってやると落ち着いたのか、フニャッとした情けなくも可愛い笑顔でカクにお礼を言うと、○○○はルッチの前へと歩み寄り、手に持っていたシルクハットを差し出した。


『これ。』

「…すまないっポー。」

『ハトさんが喋った!すごい!』

「ハトさんじゃない。ハットリだっポー。」

『ハットリ!可愛い名前!』


無表情でわかりづらいが、明らかに困惑しているルッチに、カクは隠れて笑った。
普段から***以外の子供とは進んで接点を持とうとしないルッチだから、いきなり子供に話し掛けられて驚いているのだろう。
まぁ、面白いから放置しておくが。


ずぶ濡れのままルッチ(正確にハットリ)に瞳を輝かせていた○○○だが、やはり寒かったのかクシュンと随分と可愛いクシャミが出て、ついでに小動物の鳴き声のような腹の虫がなった。
今まで騒いでいたアークが急に静かになり、顔を真っ赤に茹で上げている。
あぁ、子供は可愛い。


「ま、とにかく中に入らんか?○○○はずぶ濡れじゃし、ワシ等も腹が減っておるしのぅ。」

『は、恥ずかしい…。』

『だ、大丈夫ですよ○○○さん!僕もお腹が鳴る時ありますから!』

「ほらほら、立ち話はそこまでじゃ。行くぞ***、○○○。あぁ、ついでにルッチ。」

「俺はついでかっポー、バカヤロウ。」


ついで扱いされたルッチが不機嫌そうに眉を寄せるが、それを無視して右手で***、左手で○○○と手を繋ぎながらガレーラカンパニーへと入って行くカク。
いつまでも此処で突っ立っているわけにもいかないので、○○○が守ってくれたシルクハットを被り直してルッチもガレーラの中へと向かう。


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