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美しき水の都W7。
今日も太陽は元気に昇り、水をキラキラと光らせていた。
時折聞こえるリズミカルな金鎚や鋸の音はW7の誇るガレーラカンパニーから響いている。


いつも活気に溢れ、暖かい人々が暮らす街を小さな足で歩く少年がいた。
艶やかな黒髪を風に遊ばせ、フワリと浮かぶ微笑みは春の日差しを連想させる。
その少年の名前は***。


この街にあるバーの店主、ブルーノの甥っ子で彼の店を手伝う働き者。
ガレーラの船大工達からも可愛がられており、このW7ではちょっとした有名人である。
しかし、伯父の店を手伝う働き者の甥っ子というのは仮の姿であり、本来は夜の来ない島“エニエス・ロビー”にて給仕をしている。
では、何故そんな少年がW7にいるのかと言うと、彼の大好きな人達……世間ではCP9と呼ばれる彼等の救援にやってきたからである。
少年としては、大好きな彼等の役に立てるのなら何でもするつもりでいるが、実際は彼等(主にルッチ)の癒しとして十二分に役立っているようだ。


そんな少年は、両手に重そうな荷物を抱えてガレーラカンパニーへと続く道を歩いていた。
いつもはヤガラに乗っているのだが、今日はヤガラの調子が悪そうで、そんなヤガラに無理はさせられないと勇んで歩き出したのだが…やはり2人分とはいえ、お弁当をずっと持って歩いていると腕が痛くなる。
少しだけ休憩しようとお弁当を地面に置き、フウッと一息ついた時だった。


突如、道の曲がり角から人が飛び出してきたのだ。
***のいた場所は角を曲がってすぐの所。
もちろんビックリして見開いた瞳に映る、飛び出してきた人はドンドンと大きくなり、案の定派手な音を立ててぶつかってしまった。
二人して地面に尻餅を付くが、***はすぐに立ち上がって、ぶつかってしまった人に目を向ける。


走り回っていたのか、柔らかそうな栗色の短髪は少し乱れ、ぶつかった拍子に飛んでいった淡いオレンジ色のサングラスに隠れていたペリドットの瞳からはポロポロと涙が零れていた。
見た所、***より少し年下の少年のようだ。
背中に背負った天使の羽根が着いたリュックがズルリとずり下がっている。


『す、すす、すみません!お怪我はありませんか!?』

『ウゥッ……ヒックッ……。』

『わぁあ!!ご、ごめんなさい!泣くほど痛かったのですね!本当にごめんなさい!』

『ヒック…ち、ちが……。キッドが……!』

『え?』

『…ッ…ヒック…キッドが…いない、んだ。』


どうやらこのペリドットの瞳をした少年はキッドさんという保護者?と逸れてしまったから泣いているようだ。


しかし、そこで困ったのは***だった。
***には今、お弁当を届けると言う大事な仕事がある。
でも、困っている人を放っておける人間でもない。
どうしようかと考え、最終的にはお弁当を届けてからペリドットの瞳をした少年の保護者を探そう!と言う考えに至った。


『僕、これからガレーラカンパニーの船大工さんにお弁当を届けるんです。それが終わったら一緒にキッドさんを探しましょう!』

『グス……いいの?』

『もちろんです!此処は水路がたくさんありますし、道も入り組んでますから一人で探すのは大変ですもんね。』

『……うん、ありがとう!』

『僕は***と言います。貴方は?』

『オレ、○○○!』

『○○○さん、良い名前ですね!さぁ、行きましょう!』


コクコクと勢い良く頷く○○○と名乗った少年はムクリと立ち上がる。
それに合わせて***も地面に置いてあった2人分のお弁当を両手に抱えた。


さっき保護者と逸れて怖い思いをした○○○は、もう逸れないように***に手を繋いでもらいたかったのだが、お弁当で両手の塞がる***に無理を言うのも憚られ、***の着けている黒いエプロンを遠慮がちに掴むに留めた。


***が歩けば○○○も歩く。
まるでヒヨコのように一生懸命***についていく○○○。
***にしてみたら弟が出来たような感覚である。
途中で、***がお弁当を見つめて溜め息を着いたのを見て、○○○は***の両手からお弁当を掻っ攫い片手に持った。


『あ!○○○さん!?』

『***、腕痛そうだったからオレが持つ。』

『でも、あのっ!』

『オレが持つ。』


ニコニコとしているが有無を言わさない雰囲気を醸し出す○○○に、***も折れた。
空いた片手でエプロンをちょんと摘むように持つ○○○の手を握って、見た事のないものに目を輝かせてキョロキョロと辺りを見回し、手を離したら間違いなく水路に突っ込んでしまいそうな○○○と一緒にガレーラを目指す。


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