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「○○○さん、キッドさんたちは甘いものはお好きでしょうか?」

「んー、キッドはあんまり好きじゃなかった…」

「じゃあお砂糖は少なめにしておいて、バニラで香り付けをしましょう」

「甘くなくなっちゃうの?オレ甘い方が好きだなあ」

「甘さは控えめになる程度ですが、生クリームを添えても美味しいですよ」

「本当?ならオレも大丈夫だ!」

和やかな光景につい微笑ましくて緩んでしまう頬と心をきゅっと制し、2人に分からないようにまたため息を1つ。
まだ小さな子供とはいえ、本来は自分たちが淘汰すべき相手を招き入れ、なぜかケーキを焼くことになったその姿を可愛らしいなどと。
***を責める気も咎める気も無いが、それでも世間的には随分と物騒な組み合わせである。
片や殺しを許可された自分たち。片や億越えの賞金を懸けられた海賊。
そんな敵対する保護者をそれぞれに持ちながらも、笑い合う2人はただただ平和だった。

「ふぬぬぬぬぬ!!」

「***、交代交代!オレも混ぜるー!」

「無理するなよ、俺も手伝うから頑張れ」

まあ色々と悩んだものの、目の前で必死に生地やメレンゲを混ぜる姿に負けて手を出してしまうわけで。
キッチンに3人で並んでがっちゃがっちゃとボウルを鳴らす。
何度かに分けて全ての材料を混ぜ合わせ、型に流し込んでオーブンへ。

「このままどれくらい焼くの?」

「様子を見ながらだが40分ってとこか。修理の話も調度良いくらいに終わるんだろうな」

「…色々とすいません、ブルーノさん」

「気にするな、友達なんだろう?」

***も自分や俺たちの立場を忘れてはいなかったようで、すいませんの一言にはいくつかの意味での謝罪が込められているようだった。
そんな***と、オーブンを覗き込んでいた○○○の頭をぐりぐりと撫でて抱き上げてやる。
たしかに相反する組み合わせだが、こうして抱き上げれば変わりなど無い小さな子供。
潜入中に海賊を表立って捕まえることもできない(酒場の店主の自分は特に)のだから、今この2人を引き離すこともあるまい。

「船の皆よりたかーい!見て見て***、天井に触れそう!」

「ひゃああ!危ないですよ○○○さん!」

「○○○本当にあぶな、おいおいおい…」

「○○○さーん!」

抱えた腕からちょろちょろ抜け出して天井を触ろうとする○○○に声をかけたが、言っている傍からバランスを崩して頭から落ちて行った。
反対の腕で抱えていた***まで手を伸ばして落ちそうになったので、それを抑えつつ落下する○○○の方もなんとか片足を掴む。
ぶらん、と逆さ吊りにしてしまった○○○をそっと地面に下ろしてやり、わたわたと慌てる***も隣に下ろしてやった。

「大丈夫でしたかアークさん…!」

「すまん、頭に血が上ったろう」

「大丈夫、キッドによくやられてるから!」

「「……」」

…やっぱり夜に闇討ちでもしてキッド海賊団はどうにかすべきだろうか。
***の友達を救出すると言えば、他の奴らも手を貸してくれそう、と言うか絶対に全力で潰しにかかるんだろう。怖い怖い。


+++++++


「てめえは毎度毎度学習しねえ犬だなあおい!」

「俺から言わせれば、○○○がいなくなったことに気付けなかったお前もそろそろ学習したらどうだ。」

「さりげなく自分を棚上げしてんじゃねえぞキラー」

なんとなく予想はしていたが、思い切り蹴り開けられられた店の扉は綺麗に奥まで飛んで行った。
飛んできた蝶番(ちょうつがい)を払いのけてため息を吐くと(今日何度目だ?)、手配書で見慣れた殺戮武人がすまなかったと謝罪の言葉を口にしたので正直ぎょっとしてしまった。

「うちの○○○が世話になった。
***、前回も今回も○○○を見付けてくれてありがとう」

「いえ、またお会いできて嬉しかったです」

「キッド、キラー、オレケーキ焼いたんだよ!」

「ああ?お前がケーキ?食えんのかよそんなもん」

「素直に返事ができないのかキッド。上手くできたか?」

「***とブルーノさんと一緒に作ったから綺麗にできた!皆で食べようね」

彼らがやって来る少し前に焼き上がったシフォンケーキは、冷ました後に半分ほど切り分けて箱に詰めてやった。
その箱を誇らしげに掲げる○○○に、褒める殺戮武人とそっぽを向いているキャプテン・キッド。

逆さ吊りに対しての『キッドによくやられてるから』発言に少し警戒していたが、これではまるで家族か何かのようじゃないか。
一般市民にまで被害を出す凶悪な噂とは違って、○○○には随分と優しいことで…と胸中でつぶやいやが、自分たちも負けず劣らず***に対して甘いのだと気付いて、なんだか申し訳なくなってしまった。

「そうだ、船は大丈夫?直る?」

「ああ、たいして日にちもかからないそうだ」

「さっさと宿に戻るぞ、毎回手間かけさせやがって…」

「待ってよキッドー!あ、***、また明日も来ても良い?」

「もちろんです!お待ちしていますね○○○さん!」

***と手を取り合って笑う○○○にキャプテン・キッドが舌打ちし、(殺戮武人にまた叱られた)ずんずんと戻って来たと思ったら、邪魔したな、と一言つぶやいて出て行ってしまった。
それを追うようにして殺戮武人も礼を言って出て行き、最後に○○○も手を振って行ってしまった。

さて明日は3人で何を作ろうかと考えながら、とりあえずは店の奥に転がっている扉を拾い上げる。
空にはもう夕日が昇り、そろそろ店を開けなければならない。
遠くからは同僚を含む船大工たちの聞きなれた談笑の声が聞こえて、今日最後になることを祈りながら、またため息を吐いた。



穴あきシフォンケーキに友情を込めて



「この前○○○に貸した上着を返してもらったんじゃが…」
「…きっちり畳まれてクリーニングされてるっポー…」
「なんだか海賊を見る眼が変わりそうで怖いわい」
「ところでその○○○は明日の晩***の部屋に泊まるらしい」
「ほう!子供のお泊り会とはまた可愛らしいのう」
「(ギリギリギリギリ)」
「いや子供じゃから。友達じゃから。何を嫉妬しとるんじゃルッチ」



あとがき

「人生足別離」のベコ様に捧げます!

いやはや、無計画に書いたものですから、気付いたらまさかの長さになっていてビックリしました…!!
ブルーノさんを交えた3人でケーキ焼くぞ!とだけ決めて書いた結果がこれですよ!おバカ!
「毎度毎度学習しない犬」は私のことですね、ええ分かってますよ。←

ベコ様、お待たせしたあげくこのズルズルした長さ、本当に申し訳ありません…。
そして書かせていただけて楽しかったです。ありがとうございました!
返品ももちろんOKなので、どうぞ煮るなり焼くなりベコ様のお好きなようにして扱ってやってください。
これからもこっそりじわじわstkさせていただくので、どうぞ生暖かい目で流してやってくださいませ…!(ふかぶか)
管理人:銘


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