秋の夜長の-2 [ 50/50 ]

+++++++



「象さんのお尻は…ざらざらでちくちくなんですね…!!」

「わーっはっはっはっ!実物のファンクはこれよりまだでけえぞ!」

「こんなものの手伝いさせられるより、噂でも広めに行きたいチャパー…」

スパンダムさんの隣で座っていたフクロウさんが何か呟いたようですが、内容までは聞こえずスパンダムさんも聞いていないようです。

「チャパパー!学内では、青雉と黄猿がこたつを持ち込んで赤犬に追い駆けまわされてるとか、面白い噂がわんさかあるぞー」

クザンさんとボルサリーノさん…こたつとは思い切ったことを…!でも良いですよね、こたつ。サカズキさんには怒られそうですが、学校でこたつなんて、学生にとっては永遠の夢のようなものです。

「あ、そうそう!ついさっき、西棟でルッチが林檎飴を買ったって噂もあったぞー」

「え!ルッチさんがですか?」

「普段甘いものなんてほとんど食べないルッチだから、女生徒を中心に“予想外!可愛いー!”とか噂になってたチャパパー」

ルッチさんが林檎飴。想像してみると確かに可愛らしい組み合わせです。
ですが、“普段甘いものなんてほとんど食べない”にはちょっと首を傾げました。ぼくが焼いたお菓子を、いつもとても喜んで食べてくれるのですが。
……っは!!そう言えばコーヒーはいつもブラックですし、無理をして食べてくれているのでしょうか…!?

ん?そうなると林檎飴はいったい?
??、???
むむむ、そこのところも気になりますし、早くお会いしたいものです。



++++++



林檎飴を買った。
俺は別段甘いものは嫌いではないが、好んで食べることも無い。ただしあの子の作ったものは別で、丁寧にラッピングされた包みをはにかみながら手渡すあの子を、どうして拒絶することが出来ようか。それに、実際あの子の作る物は何だって美味い。

林檎飴はさっき見かけて、あの子の目撃証言が無かったので、まだ買っていないだろうと思って土産にと買った。真っ赤で丸い林檎飴なら、あの子にもきっと似合う。これを懸命にかじったり舐めたりする姿はどれほど可愛いものか。

しかし俺とこの林檎飴の組み合わせがはっきり言っておかしいことは自覚しているので、出来るだけあの子に渡したい。それなのにあの子の背中のぬいぐるみさえ視界に入らないとはどういうことだ。

「あ、ルッチじゃないの」

「…………………どうも」

「分かりやすく引くのやめてくんない?」

こたつだった。
見間違いかと見直してみたが、やはりこたつだった。
廊下にどんと置かれたそれは、下に小さなカーペットがひいてあり、みかんまで備えられている。
そのこたつにいつもの怠そうな顔で入っているのは青雉。さっきまで黄猿も一緒だったそうだが、怒って追って来る赤犬側に寝返ってしまったそうだ。裏切り者め…とぼやいているが、そもそも何故持ち込もうと思った。

「あの子も絶対喜んでくれると思ったんだけどなー…なんだかんだでまだ一度も会えてないんだわ。その様子じゃそっちもそうでしょ」

痛い所をついてくれる。
林檎飴片手に無言で返すと、どう受け取ったのか、青雉はニヤリと笑った。

「ま、このまま会えなくても俺は約束あるし?」

「約束ですか」

「今日のラストのキャンプファイヤーと花火、東棟の屋上で2人で見るんだよ。…鍵開けてもらうのに、ちょーっとだけ職権乱用したけど」

どうだ羨ましかろうとばかりにこたつで頬杖をつく青雉に、はあ、とだけ返しておく。普段は教員にさえ解放禁止にしている屋上だ。たしかに多少の職権乱用は必要そうだ。しかしそこにあの子を誘っていたとは。
あの子が昔馴染みのブルーノの家からここに通っていると聞いた時は驚いたが、その経緯にこの男が絡んでいると聞いた時にも驚かされたものだ。そこは素直に感謝したいところだが、あの子への過保護ぶりと俺への執拗な妨害行為はいただけない。

「ここもそろそろサカズキに嗅ぎ付けられそうだし、また移動するか。あーだるい…」

そう言いながらもがたがたとこたつごと移動していく青雉を見送った。
こたつが角を曲がって見えなくなってから、ポケットから携帯を取り出す。連絡先の一覧を開けば、「赤犬」の名前はすぐに見付かった。



+++++++



「すいませんクザンさん、遅くなりまし…っわぷ!!」

「やっと会えた、ハルア」

「え、あれ?ルッチさん?」

息をきらして屋上に駆け込んできたハルアをぎゅっと抱きしめる。ああやっと会えた。そしてやっと名前が呼べた。
むぎゅう、と抱きしめる腕に力を入れると、ハルアの背中のぬいぐるみの存在を思い出して少し笑えた。背丈ほどはありそうなぬいぐるみは、聞いたとおり紐で子供をおんぶするようにくくりつけられていた。

「ずっと探していたんです。でも会えなくて…。最後になっちゃいましたけど、会えて良かった…」

可愛いことを言って甘えてくるハルアに、いよいよこれは本格的に初等部の英語教員に名乗り出るべきかと本気で考えた。最近は初等部からの語学授業が当たり前になってきている。押し通せば何とかなりそうではないか。

「ところで、クザンさんがここに来ませんでしたか?」

「ああ…彼なら赤犬に見付かったようでここには来れそうにないらしい」

「あ、ついに捕まっちゃったんですね…!でもちょっとだけ見たかったんですよね、こたつ」

赤犬に連絡して、青雉がここに来るはずだと密告してはりこませたのは俺だということはまあ置いておいて。
教員一の俊足の黄猿に捕まり、赤犬に連行される青雉の恨みがましい視線も今は忘れて。

「朝からずっと…探していた」

「え!?ルッチさんもですか?じゃあずーっとすれ違ってたんですねえ」

「初めてのここの学園祭は楽しかったか?」

「はい、とっても!!」

ふにゃりと笑うハルアからは、いつもの林檎と太陽の柔らかい匂いの他に、綿あめやソースの祭りの匂いがする。美術部で描いてもらったという似顔絵を披露するハルアの頬にキスすれば、夕日も沈んで暗くなった屋上でも分かる程赤くなる。

「…ああ、忘れるところだった」

「わ、林檎飴…!」

少し分かりにくいところで売っていたので、やはり見付けていなかったらしい。目を輝かせて礼を言うハルアの頭を撫でる。
少し溶けてしまっていたので、慌てて袋をはずしてかぶりつく様子を眺めていると、目下の校庭でキャンプファイヤーに点火したようでずいぶんと明るくなった。しばらくすれば花火も始まることだろう。

「甘くて美味しいです。ルッチさんもどうぞ」

ニコニコと嬉しそうに差し出されて、林檎飴を一口かじってみる。林檎をコーティングした飴は想像以上に甘かった。そして想像以上に食べにくい。少し口にしただけで口周りが汚れたのが分かったので、べろりと舐めとる。やはり甘い。

「あはは、食べるの難しいですよね、これ」

そう言って笑うハルアの口周りも少し赤くなっていたので、断りなくべろりと舐めとる。……余計に甘い。

「ひゃ、あ、林檎飴…汚れてました?」

「ああ」

「で、でもそれだと食べる度汚れちゃって…」

「ならその度舐めてしまえば良い」

「え、あ、むむむむむ…!!?」

真っ赤になって唸りながらも林檎飴をかじるのはやめないので、これはあれだろうか、期待なんてものをしても良いのだろうかと考えていたら、頭上が轟音と共に明るくなる。
なんだ、今年はこんな打ち上げ花火まであるのか。無駄に豪勢なことだ。

いきなりの音と光の雨に、林檎飴を忘れてぽかんと上を見上げるハルアに、口周りはもう汚れていないがまた舐めようとすると、背中にあったはずのぬいぐるみで防がれてしまった。

「ハ、ハレンチなことは周りにばれないようにやるのがマナーだってカクさんが言ってました!」

「…ここなら誰にもばれないが?」

「あ!!え、あ、パウリーさんが!学校でハレンチなことはけしからんって言ってました!」

「…学外なら良いと?」

「え、あ、あうう……いたいっ!?」

「っ!!?」


ぽこんぽこん!!
良い音が2回したかと思うと、ころころと床に小さな林檎と達磨が1つずつ転がった。どうやらそれぞれ俺とハルアの頭にぶつかったようで、どこから飛んできたのかと校庭を見下ろしてみると、フランキーが教員たちに追い駆けられている。
教員の叫ぶ内容を聞けば、先程の打ち上げ花火はなんと奴の手作りしたものだったらしい。一歩間違えば大惨事になるかもしれなかっただけに、追い駆ける教員たちの目が本気だ。それから逃げるフランキーは笑いながら手当たり次第に色んな物を打ち上げながら笑っている。林檎と達磨も、もしかしなくてもあいつか。

「ふふふ…あはははは!フランキーさんすごい!あははは!!」

ツボにはまったのか、林檎と達磨を撫でながら大笑いするハルアを眺めて、俺も少しだけ珍しく声を上げて笑った。

…さて。ブルーノに何と言ってハルアをうちに泊めようか。



秋の夜長の祭りはゆめゆめ




あとがき
やっと書けたあああああああああ!!!!
プリンセスダルマさんに森見登美彦さんの「夜は短し歩けよ乙女」のパロのリクをいただき、何度も何度も書いては消し書いては消し…。再チャレンジの度に地元図書館で本を借りていたので、そろそろ司書さんに「またお前か」と覚えられていそうで怖いです。

乙女が少年なら、まあ先輩はルッチさんですよね!ね!!
と即決して、何度もあの奇妙奇天烈・混沌とした世界観を出そうとじたばたしていたんですが…なんとか高校教師と小学生で落ち着きました。
韋駄天こたつや象の尻などなど、あれもこれも!とちょっとネタを詰め過ぎた感がいなめませんが、学園祭事務局長やパンツ総番長、偏屈王のシナリオ…。詰め込めなかったネタがまだまだてんこ盛りです。元ネタ偉大すぎる…!!!大好きです…!!!
リクをしてくださったプリンセスダルマさん、遅くなり(すぎ)ましたが、本当にありがとうございました…!!


語るともう本当に長くなりそうですが、1P目に注意書きも書きましたが、原作を知っている方で気を悪くしてしまった方がいらっしゃったら大変失礼いたしました。
愛故のパロ、アレンジだとご理解いただけると幸いです。

管理人:銘


[*prev] [next#]
top
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -