その23-2 [ 44/50 ]

「え?何触ろうとしてんの?調子乗らないでくれます?って言うかそこの大きいの早く除けてくれます?」
決して、決して猫がそう言った訳ではない。悪魔の実を食べた訳でもない彼らが言葉を発することはありえなかったが、カクの腕を尻尾ではたき落した猫は、たしかにそう目で語っていた。ふんっ、と鼻を鳴らす嘲笑つきで。

「…………」

「カクさんは触っちゃダメなんですか?優しい方ですよ?」

「にゃん」

「ルッチさんも今は大きなお姿ですが、ひどいことはしないですよ?」

「にゃん」

まさに借りて来た猫。猫かぶり。
うってかわってころりと本来の可愛らしい顔に戻り、ハルアの言葉に相槌を打ちながら尻尾を揺らしている。
だってあの人たち怖いんだもの!とでも言いたげな庇護欲を誘う瞳ですり寄れば、ハルアの周りに見えていた花の幻覚にハートが混ざる。

「…ルッチ、猫って柑橘系がダメなんじゃったかのう…」

「好き嫌いが分かれるらしいが…もういっそ虎ばさみでも…」

「うおおおおいお前ら何やってんだこらああ」

「げ」

「あれ?スパンダムさんの声?」

「…上か」

中庭に面する塔の上階を見上げれば、窓の1つからスパンダムがこちらを見下ろしている。彼がそんなことをすれば、持ち前のドジスキルで落ちてくるんじゃないかとカクとルッチは嫌な予感がしたが、さすがのスパンダムも窓からの転落死は避けたいらしく、しっかりと窓枠にかじりついている。

「おいカク!お前ルッチ呼びに行くのにどんだけかかってんだよ!」

「あーすまーん!忘れておったー!」

「やっぱりか!そんなとこで油売ってんじゃねえよおっと危ねえ!?」

「ひゃあああ!?スパンダムさーん!気を付けてくださいねー!」

「心配すんなー、俺は窓から落ちるなんてバカはしねえさ」

いや、そのバカをさっきやらかしそうになったじゃないか。
そんなツッコミはにゃあにゃあ鳴いている猫に任せて、さてこの場を後にして良いものかとルッチが人獣化を解くと、上から聞き慣れた悲鳴が。

「ぶあっちいいいい」

「「「あ」」」

窓からぽーんと投げ出されたのは心配されていたスパンダムではなく、彼が片手に持っていたコーヒーカップ。磨かれた白に日光があたり、さながら窮地に登場したヒーローのごとくきらりと光った。

中庭の3人と猫たち、そして犯人であるスパンダムが見守る中、カップはゆるい放物線を描いて落下した。
しかしそこでぼんやりしているCP9ではなく、狙ったかのようにハルアと猫団子の頭上に落ちて来たカップとソーサーを薙ぎ払う。少し離れた地面でがしゃん!と可哀相なカップたちが悲鳴を上げると、今度はそれに驚いた猫団子からふぎゃっと悲鳴が上がった。

「やっべ!おい大丈夫かハルア−!?」

「当然ながらわしらの心配は無しか…」

「ありがとうございますカクさん、ルッチさ、ひゃ!」

猫がまだ怯んでいる内に、さっさと剃でハルアを猫団子から掻っ攫ったルッチに、核を無くした猫団子が不服そうに鳴きだした。
ハルアも猫の方を見ながら「猫さん…」としゅんとしていたが、ルッチが長い尻尾を出して揺らして見せれば、途端にぱっと表情が明るくなる。

「わははは、やられたのう猫たち」

「「「にゃおん」」」

「やっぱりルッチさんはつやつやですねえ」

「あっちの方が良かったか?」

「ルッチ、お主が拗ねても気持ち悪いだけじゃのう」

「なんだ、まだいたのかカク」

「むむむ、猫さんたちもルッチさんもどちらも素敵な毛並みをお持ちですが…」

「ですが?」

「ルッチさんはぼくが力いっぱいぎゅーってしても怪我したりしませんもんね」

言葉の通りにぎゅぎゅっと抱き付けば、かっと目を見開いたルッチはある意味大丈夫ではない。抱き付くハルアをそのまま抱えて木陰に入り、尻尾だけだった人獣化を全身に戻して、どうやらこのまま昼寝の体勢に入るらしい。
それを未練がましく見ていた猫たちは、ルッチの纏う空気が穏やかになったのを感じたのか、猫団子を解いて今度はルッチの周りに集まり始めた。

「ふわふわもこもこで、つやつや…」

「猫天国じゃなこりゃ。ハルアの身体を冷やしたら承知せんからな」

返事の代わりにしっしっと追い払う動作をして目を閉じたルッチに、けたけた笑ってカクは塔の中へと戻って行った。

「……あ、ルッチを長官の所に連れて行くの忘れてたわい」

「あいつら…普通に昼寝始めやがった…。え?俺忘れられてる?」


にゃんにゃんにゃんこのねこまみれ


「にゃん」
「静かにしろ、ハルアが起きる」
「にゃーんにゃーんにゃーん」
「この…」
「んむ……にゃあん…」
「!!!!」


あとがき
2月22日は猫の日。
つまりルッチさんの日という訳ですねばんざい!
しかしイヌイヌに比べるとまだまだ少ないネコネコ能力者。もっとにゃんこ増えてくれても良いじゃないですか…っ!
管理人:銘


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