ブルーノ [ 26/50 ]

気が付くと、ブルーノは見知らぬ地にぽつんと立っていた。
ぎょっとして身構えたが、そこで彼はこれは夢だと気が付いた。
ベタな手段だが、頬をつねってみると、思った通り何も感じない。

たしか酔っ払いを追い払って店の戸締りをした後、シャワーを浴びてベッドに横になった。
いつもと何も変わらない1日だったはずだが、こんなにもはっきりとした夢を見るのはいつぶりだろう。

周りは真っ暗で、強い風と雨がどんどん彼を濡らしていく。夢にしてはリアルに冷えていく体に驚いた。
そしてなぜか彼はどこかの家のドアノブを握っていて、今から家の中に入りますよ、といった状態だった。
全くもって訳が分からないが、まあ夢というものはそんなもんだろうと考え直して腕に力を入れた。

きい…と小さな音を立ててドアを開けると、広くは無いが綺麗に片付けられた部屋が目に入る。
どうやらリビング兼キッチンのようで、テーブルの周りを3つのイスが囲んでいた。
テーブルの上には、パスタの盛られた皿が2つと空の皿が1つ。

「おじさん、こんばんは」

「おっと、すまない」

完全に自分ひとりだと思い込んでいたので、背後から聞こえた声にブルーノは思わず謝罪の言葉を口にした。
少々警戒しながら振り返ると、そこには小さな小さな子供が立っていた。

「すいません、お父さんもお母さんも今晩は帰らないみたいなんです」

「そうなのか。声もかけずに入ってすまない」

「いいえ、嵐の中お疲れ様です!今タオルを持ってきますね」

適当に話を合わせて言葉を返すと、子供は疑う様子も無く奥へ駆けて行った。
すぐにタオルを持って戻って来た子供に礼を言って、ずぶ濡れだった体を拭く。
窓に目をやると、ここに入って来る前よりも更に風雨は強くなったようで、ガラスを叩く雨の音と雷鳴が響いていた。

「すごい雨だな。1人で留守番か?」

「はい。2人とも隣の島へ仕入れに。今晩帰れるはずだったんですけど、この天気じゃあきっと帰りの船も欠航したでしょうね…」

子供がちらりと見た方に目を向ければ、パスタの皿の乗ったテーブル。
冷めきってしまったようで湯気も無いそれは、目の前の子供と同様に少しばかり寂しそうに見えた。
こちらが見ていることに気付いたのか、子供はへにゃりと笑って見せた。

「おじさん、どうぞ今晩は泊まって行ってください。こんな雨じゃ傘も合羽もダメそうですし」

ぱん!と手を合わせて言う子供は、見たところ9・10歳といったところか。
真っ黒の短髪に、くりくりと見上げてくるダークブラウンの瞳が、不思議ととても心地良かった。
なんとなく見覚えがあるような無いような。
そんな曖昧な感覚を追い払ってタオルを子供に返した。

「2階の客間に…の前にお風呂ですね。着替えはー…」

「おいおい、そんな簡単に家にあげて良いのか?」

「おじさんは悪い人でしたか?それでもやっぱりこの雨じゃあ帰れませんよ」

でしょう?と笑って言う子供に、呆れるやらおかしいやら。
夢の中で、まさかこんな小さな子供に気を使われるとは。
そんな訳の分からない夢を見ている自分にも呆れるやらおかしいやら。
ありがとう、と礼を言うと、子供はひどく照れたようにへにゃりと笑って見せた。

「俺はブルーノだ。お前は?」

「ぼくは」

子供が口を動かしたが、声が聞こえない。
どうした?と聞き返そうとブルーノが口を開いた瞬間、開いたのは彼の両目だった。


夢で逢えたなら-夜



あとがき
一種のもしものお話。
「夜」が明ければ「朝」に続きます。
管理人:銘


[*prev] [next#]
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -