シンデレラ-2 [ 20/50 ]

「ドフラミンゴさん!」

順調に人ごみを抜けようとしていたクザンの歩みを止めたのは、大きなクザンよりも更に大きな1人の男。
いつもと変わらないピンクの羽コートに身を包み、それはそれは楽しそうに邪気丸出しの笑顔を浮かべて近付いてきました。

「こんな所で会うなんてやっぱり運命だな。フフ、フッフッフッフッ!」

両腕でそれぞれ肩を抱いていた美女2人を遠慮も後悔も無しに追い払い、サングラスを輝かせてハルアに腕を伸ばせば、クザンはそれを後退で避けます。
そうするとドフラミンゴもそれを追い駆けるように距離を詰め、更にクザンが逃げるように後退するの繰り返し。

「青雉、大将が子供なんて連れてちゃ格好つかねえぜ?こっちにハルアちゃん渡してお偉いさんに叱られてきな」

「あららら、お前こそなんでこんなパーティーなんかに出席してんの。いっつも他の奴らと同じようにさぼってるくせに」

「どうにも胸が騒いでねえ。そしたらどうだ、うざってえ奴らに混ざって俺の可愛いハルアちゃんがいるじゃねえか!」

「はいはい分かったから追い駆けて来るのやめなさいな…」

前進と後退の駆け引きは既に追いかけっこに変わり、会場内を面倒臭そうに走る大将(走ることが珍しい上に子供を抱えている)と、それを笑いながら追いかける七武海(いること自体が珍しい)を、出席者たちは訳も分からずに見ていることしかできません。

それを止められるであろうセンゴク元帥やつる参謀は、政府の重役たちとの話に気をとられて気付いていないようです。
途中には勇気を出して声をかけてくる猛者も数名いましたが、一人残らずドフラミンゴの能力で料理の積まれたテーブルへダイブさせられるという残念な結果に終わりました。
クザンは能力の被害にあわないように人ごみを縫うようにして逃げるので、追いかけっこは終わることなく続きます。

「クザンさん、僕なら大丈夫ですから置いて行ってください」

「いやいやダメダメダメ。なんか今あいつに渡したら二度と会えない気がする!」

「フフフ、分かってるじゃねえか青雉。こっちにハルアちゃん寄越せって!」

「ほらもううっとうしい…!」

そんな追いかけっこが続く中、会場に鐘の音が12回鳴り響きました。
驚いてクザンが腕時計に目を向けると、カチリと日付が変わる瞬間。
たいして遅くもない時間に到着したはずが、まさかの終わりの見えない追いかけっこで時間を喰ってしまったのです。

「お前のせいで貴重なハルアちゃんとの時間を…!」

「それはこっちのセリフだぜ青雉ぃ。いつまでも逃げ回ってんじゃねえよ」

「こっちも能力使っちゃおうかな…ってあれは…!」

「どうも、大将青雉…と、ハルア?…と、七武海まで」

もう我慢も限界なクザンが見付けたのは、部下たちと談笑していたらしいドレーク少将。
むこうから走って来たクザンを見付けて声をかけたは良いが、その腕に抱えられた子供と、更にそれを追い駆けてくるドフラミンゴを見て苦笑を浮かべました。

なんとなく現状が理解できたので、走るクザンがすれ違いざまにハルアを渡してきたのにも冷静に対処することができました。
小さく頼んだとだけ言い残して逃げて行くクザンに敬礼し、ドフラミンゴに見えないように人ごみに紛れてその場を後にしました。

「今回も大変そうだな、ハルア」

「ド、ドレークさん、クザンさんが…!」

「子供はおうちに帰る時間、ってことで良いんじゃないか?
…ところでハルア、靴はどこかで落としたのか」

「え?あ、あああ!!」

ハルアを抱えて足早に歩くドレーク(さりげなく周りを部下がガード)の視線は、抱えられて宙に浮いたハルアの足に。
つられてハルアも自分の足に目を向ければ、クザンの用意した新品の革靴が片方脱げて消えてしまっているではありませんか。

ぴかぴかと暗い色で輝くそれは右足にしか無く、人や物で溢れる会場を探すのは難しいようです。
ドレークもクザンにハルアを任された以上、今も追いかけっこの続いているであろう会場に戻る訳には行きません。

「残念だが、諦めるしかなさそうだな…」

「むむむ、クザンさんに謝らないと…!」

「今日は俺の船で送ろう。海列車の最終便ももう出ただろうからな」

「ありがとうございますドレークさん、お世話になります」

遠ざかって行く会場の賑やかな声や音楽を聴きながら、ハルアは小さなあくびを1つ。
いつもならもうベッドに入っている時間のハルアに、ドレークが寝ているようにと声をかけて頭を撫でれば、なぜか青色をしたカボチャの馬車に乗る夢へと落ちて行くのでした。


+++++++


「…これは」

「どうしたんじゃルッチ。
…子供の靴か?しかも片方だけじゃな」

「あら、あの子と同じくらいのサイズね」

「随分な上物じゃないか。どこかの貴族の子供のものだろう」

「……」

ぴかぴか輝く小さな革靴を拾い上げたルッチは周りを見渡しましたが、持ち主らしい子供は見当たりません。
どこかに届けるか放って置くかで迷っていると、人ごみから頭1つ分以上出た男2人が、何か言い合いながら走って行きました。
大将と七武海という珍しい組み合わせに首を傾げつつ、1人で酒場の2階の自室で眠っているであろうハルアのことを考えて、自分が拾ったあの靴と同じようなもの、もしくはもっと良いものを贈ってみようかとニヤリと笑い、手に持っていた靴を給仕に渡してその場を後にしたのでした。



不在の王子と灰を被らないシンデレラ



「クルッポー!ハルア、これを」
「おはようございますルッチさん」
「朝から貢ぎ物か…」
「黙れブルーノ」
「…これは…!!」
「どうした?」
「い、いえなんでも!!(あの時落としたものと同じもの!)」




あとがき

いつかやりたかった童話もの。
パロディにするつもりが、気付けばアレンジしただけになっていました。…あれえ…?
ちなみにパーティー会場は例の2人に半壊されていたりいなかったり。←
さりげなくクザンさんが不憫極まりないポジションですね。悪気は無いんですよクザンさん!
管理人;銘


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