番外・その8 [ 11/50 ]

「起きてください、朝ですよ」
「・・・・」
「ルッチさん、今日もお仕事でしょう?起きないと」
「・・・・」
「ルッチさん、ルッチさん」

「クルッポー・・・」

・・・そんな責めるような声で鳴いてくれるな、ハットリ。

昨日もあのバカのパウリーに連れまわされた。
ブルーノの店を含めて五件は酒場をはしごし、最後の店でつぶれたバカをおいてさっさと帰ってやった。(今思うとブルーノの店に残ってずっとハルアといれば良かった)
もちろん二日酔いなどありえない。
酒は残っていないし、睡眠時間の不足など問題にはなりはしない。
ほぼ不眠不休で動き続ける任務を思えば、今回は退屈と言って良いほどだ。

「ルッチさん、朝ご飯を食べる時間が無くなっちゃいますよー」

声は焦っているが、体を揺する手は優しい。
叩いてもぽんぽんと撫でるようで、枕に押し付けた顔が笑いを押さえられない。
小さな手はあたたかく、もう少し、もう少しと寝たふりを続けてしまう。
優しい声をもう少し聞いていたい。

ハルアがこの島に来て(本当に良くやったブルーノ)しばらくした頃、朝が弱いから起こしに来てくれないか、と抱きしめながら頼んでみると、いつもの笑顔で快諾してくれた。
「おいルッチ、お前たいてい一番乗りじゃねえかよ」
「それにルッチは起こしに来てくれる女がいくらでもおるじゃろう」
・・・もちろんしばいておいた。

パウリーの言う通り、朝は毎朝自然と目が覚める。
低血圧ではあるが、CP9が朝寝坊など冗談にもならない。

女だって、声をかければいくらだって寄って来る。
ハルアが来る前はそういうことも何度かあったが、今ではそんな無意味なことはする気にならない。
そんなことをしている暇があったらハルアとお泊り会を開く。
過去の俺のばかやろう。
ちなみにハルアが来た日のうちに、家に置き去りにされていた女たちの私物は一つ残らず捨ててしまった。当然だ。

「ルッチさん、ルッチさん」

むう、と今度は髪を触りだしたハルアが愛おしくて、腕を伸ばしたいのを堪える。
まだだ、まだ時間は余裕がある。
こうしていれば何度でも名前を呼んでくれる。
何度でもあちらから触れてきてくれる。
ああ、なんてくすぐったい。

家の鍵のスペアを渡した時の顔は忘れられない。
嬉しいのと、照れと、あとは少し困ったような。
ファンの皆さんに申し訳無いです・・・と小さくつぶやいたが、その小さな手の中にはしっかりと鍵が握られていた。
それが無性に嬉しくて、抱き上げていくつもキスを降らせれば、ひゃああ!と赤くなる顔がやはり可愛い。
それがまた嬉しくて、やめずにいればパウリー・カク・カリファ・アイスバーグの四人に殴られた。(あれは全員本気だった)

まったく空気の読めない奴らめ。

「えいやあああああ!!」
「!!」

過去の四人に殺意を向けていると、ぐるんと転がる自分の体。
枕に押し付けていた顔が横に向き、薄目を開くとハルアが見えた。
・・・なぜやり切った顔をしている。
どうやら今日は強行手段に出たらしい。

「し、失礼します!とりゃあああああ!!」
「!!」

まるで襲い掛かるように寄って来たかと思うと、がばりと上に乗られる。
待て、いや待たなくていいがどうした。
これはまた珍しい。
普段からは考えられない暴挙に少しうろたえれば、脇腹に違和感。

「ルッチさーん朝ですってばー!!」
「・・・・!!」

・・・くすぐられて、いた・・・。
肉体的なくすぐったさは微塵も感じないが、精神的には大ダメージ。
くすぐったい。この状況がくすぐったい!
顔はひどく真剣で、かつ楽しそうで。

こちらに来てからは子供らしい面をいくつも目にすることができたが、くすぐりとはまた・・・。

ああ、愉快で堪らない。
まるで本当の親子か、兄弟か・・・はたまた恋仲か。
あまりに自分に似合わない朝の一シーンも、ハルアとセットになった途端こんなにも自然に感じられる。

「・・・く、くっくっく・・・」
「起きたー!!すごいぼくのくすぐりテクニック!」

ついに耐えられなくなり、笑いをこぼせば起こる歓声。
愛しさと自分と状況に対しての笑いだったが、ハルアはうまい具合に勘違いしてくれた。
おはようございます、とその口が紡ぐより先に腕を伸ばして引き寄せる。
先ほどまで感じていた手と同様にあたたかい。

「おはよう」
「、ひ、」

赤い耳に囁きかけて、ここにもキスを一つ。

さあ、早く俺のためにコーヒーを淹れてくれ。


甘い朝にとびきり苦いコーヒー


「(いつもより三割増しで苦い・・・)」
「さて、次はカクさんのおうちです!」
「・・・なん、だと?」
「さらにその次はアイスバーグさんなのです」
「・・・・」
「ルッチさん!カップが!カップが!!」
「・・・クルッポー・・・」


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