Youths,be ambitious [ 55/94 ]
「チアキ大佐、おはようございます」
「ああ、おはようございますドレーク。スモーカーとヒナは一緒ではないのですね」
まだ日が昇ってから間もない。じわりじわりと海に暁の色が広がっていくのを、大佐は今日も冷たい風を気にせずに見守っていた。
マフラーをしていても、この北の海の風にやられて鼻や頬が赤くなっている。コートのポケットに隠された手は、しもやけにでもなっていなければ良いが。手袋をした方が良いと言っても、この人はいつも笑うばかりだ。
「今日も寒い。いっそ雪でも降ってくれれば気が楽なんですが」
「これくらいではまだまだですよ。チアキ大佐はどこの生まれですか」
「偉大なる航路のね、ちっぽけな秋島ですよ。ドレークは?」
「私は生まれも育ちもここなので、寒さには慣れています」
そうですか、そうですか…と呟きながら、真っ赤に染まる海を見る。
吐き出される息は真っ白で、まるで今はいない同僚のようだと思った。
「おいドレーク、何じろじろ見てやがる」
「は、申し訳……え」
「似ていましたか。いや、息がこうも白いと彼のようだと思いましてね」
「驚きました…色々と」
「私はどうも生まれてから丁寧語しか喋ったことが無いと思われているようです」
「そんなことは…いえ、正直、そう思っている節がありました」
「ふふふ、私だって若い頃はぶいぶい言わせることもありました」
ぶいぶい……。
物腰柔らかく、上にも下にも慕われる人格者。戦闘においては彼に指揮をとらせれば負けは無い。いや、負けさせないのだ。彼が。
自分も過去に彼の指揮のもと戦ったことがあるが、劣勢になる一歩手前を見定めて彼は剣をとる。先陣を切って敵を狩ることはせずに、まずは我々に任せてくれる。そこにあるのは厳しさと覚悟と、子供を見守るような親の目だった。
「海軍に入る前は、元帥を海に突き落としたこともありました」
「ぶっ!!?」
「なんだ随分と偉そうな奴がいるじゃないか、とね」
「チアキ大佐が!?センゴク元帥をですか!?」
「その頃はあの方もまだ大将でしたがね。いやあ、その後が怖かったです」
引き上げられた元帥から逃げ出したものの2日後に捕まり、爆笑するガープ中将と共に数時間正座で説教を受けたと言う。無茶をすれば刑罰ものだが、大将の隙をついた見事な動きを買われて海軍に誘われたそうだ。
またとんでもない流れで海軍入りしたものだと、目の前の“紳士”の言葉がよく似合う大佐を見て思う。
歳をとると丸くなるとは言うが、そんな歳でもないだろうに。
「ドレーク、マネをしてはいけませんよ」
「できる訳がありません!」
「元帥を突き落とすことではなくて、性格のことです」
「え?」
「私は随分と角がとれてしまいましたからね。少しはとんがっていた方が老後が楽しそうではありませんか」
いや、老後って。だからそんな歳でもないだろうに…。
角がとれたとは言うが、そんな人間が、敵に鬼と恐れられたりするだろうか。船尾まで逃げ回った船長を追い込み、まっぷたつにした後ろ姿だって知っている。
かと言ってとんがっているかと聞かれれば、十人が十人首を横に振るだろうが。
「ガープ中将を御覧なさい。私もあれくらいとがっていきたいものです」
「ガープ中将はとがっていると言うか、自由奔放、豪放磊落と言いますか…」
「ああ、私も自由になりたいものですね」
「自由奔放と言う点では、あなたも十分にあてはまるかと」
「褒め言葉と取っておきましょう。ドレークはもう少し肩の力を抜くべきです」
肩を優しく叩かれて、逆に力が入って笑われてしまった。ポケットから出された彼の手は、思った通り真っ赤だった。
日はすっかり昇って、大佐の黒髪を赤く染める。まぶしそうに目を細める彼がまた笑ったかと思うと、背後から同僚たちの声が聞こえた。
「あなたたちはもっともっと上へお行きなさい。老兵はその背を見守りましょう」
また俺の肩を優しく叩いて、寒さに顔をしかめるスモーカーたちの元へ歩み寄って行った。
赤く冷たい手をヒナに叱られる大佐は、友の様にも親のようにも見えた。
越えるにはあまりにも高い壁に思えたが、できることなら、自分もあの人と同じ場所へ。
…後に、そんな彼が自分の親よりまだ年上だと知った時は、3人揃って彼の元へ全力で走った。
青年よ、大志を抱いてさっさと走れ
「ヒナ驚愕。信じられない。童顔にも程があるわ」
「ヒナ、この齢になると童顔は胸に刺さります」
「さすがに10は離れていないと思っていました…」
「ドレーク、とりあえず入り口で立ち止まったまま睨んでいるスモーカーを何とかしてあげてください」
あとがき
若き日のドレークさんたち妄想。あの3人は同期で仲良しだったと信じて疑いません。
管理人:銘
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