おまけつき優良物件 [ 49/94 ]

※「全室禁煙」の続編



まったくなんてこった!
この家は俺の家だったはずなのに。
なんで食器が増えてる。なんで本棚がいっぱいになってる。なんで俺の非常食が無くなってる。

「パアアアウリイイイイ」

「うるせっ。仕事終わって帰って来た同居人におかえりくらいねえのかよ」

「お前また俺の菓子ストック食っただろ!あと本棚占拠すんのやめろ!あと洗濯物ごっちゃになるからカゴ別にしろって言った!あとお前のマグカップ可愛いなどこで買った!?」

「あー悪ぃ。あれな、もらったやつだたしか」

「誰に!?」

「お前に」

「嘘付けなんで俺がお前に物やらなきゃいけねえんだよ。あと何か食ってきた?」

「お前あれだよ、ガキの頃に俺の割っただろうが。真っ直ぐ帰って来たから腹減った」

「あ!あ、あ、あれか!やったなそう言えば!すげえ俺って趣味良いな!今日は丼だぞありがたく食え!!あとおかえり!!」

「いちいち声がでけえ!なんで怒鳴る!あとただいま!!」

今日もきっちり俺(だけ)の家(だった家)に帰って来たパウリーは、木くずやら何やらで汚れたジャケットをソファーの背にひっかけて俺の頭を叩いた。
手ぇ洗え!うがいしろ!と声をかければ、あーはいはいーと適当な返事。それでもまあちゃんと洗面台に向かう背中を見送ってから、食卓にあいつの飯を並べる。

「今日もはりきって借金返済のために働いて来たか」

「俺は仕事に手ぇ抜いた日はねえよ。いただきます」

「ステイ!めっ!箸をおけ!!」

席についたパウリーはさっそく(俺の作った!)飯にありつこうとするが、そうはさせるかこの野郎。今日はちゃんと聞いておきたいことがある。

「んだよ、いただきますはきっちり言ったぞ」

「お行儀よろしくて何よりだよ!でもそれじゃなくて、お前、あれだよ」

「どれだよ」

「借金返済は、あれからどのくらい進みましたか!」

あれからって言うのは、このバカがなんだか意味の分からない流れで、俺の家の居候になってからのことだ。
こいつがヤガラレースでこしらえた借金を、毎日毎日取立てに現れる可哀相な借金取りさんたちに全額返すことを条件に、こいつはうちにころがりこんだ。

正確には「住ませてくれんなら借金全部返す」だったが、なかば押し切られる形で今がある。何度でも言うぞ!どうしてこうなった!

「どのくらいって聞かれても」

「あれからなんやかんやで3カ月ちょい。毎日働いてんだから結構もらってんだろてめえ」

「チアキお前、できもしねえのにメンチ切るな。顔面白いぞ」

人の渾身の怖い顔を、面白いとか言うな。あと箸をもつな。話は終わってないどころか、なんにも進んでないってのにこいつは!

「優しい俺はお前の借金全部返すって言葉を信じてうちにおいてやってんの!飯も弁当も作ってんの!洗濯してんの!朝も起こしてやってんの!母ちゃんか俺は!!」

「母ちゃんいつも悪ぃな」

「都合の良い時だけお礼なんて言って!ってやかましいわ!」

借金取りさんたちも、何が悲しくて男の尻なんて追っかけないとならんのか。借りた物はきっちり返すのが道理で、やたらとこいつが尊敬するアイスバーグさんだってその通りだって言うはずだ。しかも借金の理由がギャンブルなんて、お前母ちゃん泣くぞ。こいつの母ちゃんこの前笑い飛ばしてたけど!
とにかく、約束した以上はこつこつ返してるんだろうな?ほったらかしにしてるようなら追い出してやる!

そんなかんじのことをパウリーにこんこんと言い聞かせると、少しだけ俺から目をそらして、また俺に視線を戻す。
そして箸をもつ。丼を持つ。食う。
いやだから食うなって!!!

「ステエエイ!待てっつってんだろこの駄犬!」

「おい、ネギねえのかネギ」

「聞けや!」

「返したよ」

「はん!?」

「チアキんちに来た次の日、返した」

かえした。俺の家に来た次の日に。
かえした。かえした。……はん!?

……ぜんぶ?と聞いてみると、ぜんぶ。と。
おま、どこにそんな金が。あったならさっさと返せよ…!

「他の用のために貯めてた金崩したら、普通に返せた」

「お前マジで借金取りさんたちに謝れ」

何のためにお前を毎日毎日追い駆けたと……!ロープアクションで痛い目にあわせたこともあるくせに…!

「だから今は、その他の用のための金を貯め直してんだよ」

「はー。だからずっと酒もギャンブルも無しで真っ直ぐ帰ってくんのか」

「もうちょいしたらなんとかなりそうだからよ、それまでは部屋貸しててくれよ」



「貯まったら出てくの?やりい」

「アホ」

気付けば、腕にロープが絡んで。
もちろん、それはパウリーの袖から伸びていたりするわけで。
待て待て、これってデジャブですよパウリーさん。
その破廉恥くさい顔もデジュブですよパウリーさんこの野郎!

「本社近く。マーケットも近い。日当たり良好。お前の働いてるカフェにも水路1本で繋がってる」

「おい、おい、何言ってんだコラ何の話だコラ」

「2人住むには調度いい広さと間取りだった。だからもうちょい待て」

腕を縛られたまますとんと隣の席に座らされて、言い聞かせるように頭を叩かれる。
お前なんなの?何勝手に決めてんの?俺の意思とか知りませんってか?いつからそんなに押しが強くなった。
何なの?頭打ったの?

「ぜ、全室禁煙に変わりはねえだろうな」

あれ俺も何言ってんの?俺も頭打ったの?


2LDK・喫煙者つき優良物件


「バカの忘れた弁当届けに来ましたー」
「あ、パウリーの嫁じゃ」
「はじめまして今なんつったコラ」
「話は毎日聞いとるよ。変わり者じゃのうあんなのに嫁ぐとは」
「男は嫁ぎませんが!嫁になれませんが!」
「クルッポー、例のパウリーの嫁か」
「パアアウリイイイ出て来いおらあああ」



あとがき
「全室禁煙」の続編を!との嬉しいお言葉をいただき、やかましい2人ですがその後を書かせていただきました。
妙に手慣れたパウリーさんにずるずる流されて、さあ新居にレッツお引越し!(笑)

ミズナ様、懐かしい作品に続編リクエストありがとうございました…!
管理人:銘


[*prev] [next#]
top
「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -