うふふあはは [ 47/94 ]
「ホーキンスの髪は綺麗だね」
「そうか」
「スパゲッティが食べたくなる」
「……食うなよ」
「ミートソースでもかければ食える気がするの」
「だから食うな」
いきなり髪を褒めだしたと思ったら、スパゲッティと来た。
くきゅるるる、と腹まで鳴らすものだから、俺は念のため少しだけチアキから距離を取る。
そうすると向こうも同じ分だけ寄って来るので、結局くっついた状態で本を読み進める。
普通一般では、恋人同士が二人きりでくっついているとなると、甘い雰囲気なり展開なりになるものなのだろう。
だが俺たちはと言えば、片方は人の髪を食えるなどとぬかし、俺は俺でページを繰る手を止めはしない。
「ホーキンスの指は綺麗だね」
「そうか」
「マニキュア塗っても良い?」
「乾くまで時間がかかる」
「けーち。けちんぼーきんす」
「俺はホーキンスだ」
今度は手か。
前に「爪を黒くすればもっと魔術師っぽい」とチアキが言うから、別に魔術師っぽくする必要性は感じなかったが大人しく塗られてみた。
指先の印象が変わると、たしかに全体の雰囲気も変わる…気がしたが、いかんせん乾くまでが面倒。
タロットやカップを持つのにも気をつけろと叱られたにも関わらず、チアキの髪を触ってしまってダメにした。
しかもチアキの髪に生乾きのマニキュアが付いてしまったことで、小一時間正座までさせられた。
「ホーキンスの眼は綺麗だね。濁ってるけど」
「そうか」
「でも透きとおってる。不思議だ」
「その2つは相反するものだろう。どっちだ」
「どっちも」
「そうか」
「うん」
チアキはよく俺の眼を覗き込む。
そこに何が映っているのかと問えば、私だよ、と。それはそうだ。
さっきから3分と間を空けずに声をかけてくるチアキは、そうとう暇を持て余しているらしい。
だが他の船員たちの所に行くわけでもなく、俺のように本を読むわけでもなく。
「お前は本当に」
「ん?」
「俺が好きだな」
思ったことをそのまま口にすると、ニヤリとチアキが笑った。
「ホーキンスも、あんまり人のこと言えないけどね」
「そうなのか」
「そんならしくないもの、熱心に読むくらいには私のこと好きでしょ?」
びしりと指さされた手元には、船員の一人から借りた雑誌。
『女の子が喜ぶデート特集!』と、やたらと花やら星やらを散りばめた内容は、はっきり言ってあまり理解できなかった。そもそも、デートというものがよく分からない。
いつも一緒にいるのに、それでもどこかに出かけたいものか。
まあこんな5回読み返しても理解できないような本を、懲りずに読み返す程度には、俺はこいつを好きということか。
「次の島では期待してるよ」
「…お姫様扱いしてほしいか、俺に」
「………それは、うーんパス…」
うふふあははにゃ程遠いってね
「好き好き同士、これからも頑張って行きましょー」
「何を頑張るんだ」
「まずはそんなもん放り出して、私に飛びかかって来るような男になってね」
「……それは…難しいな」
「あーはははこの野郎」
あとがき
「そうか」の多いホーキンスさん。
無関心なんじゃなくて、「お前がそう思うならそういうものか」みたいな反応。
この人はあんまりベタベタするイメージが無いですが、きっとこれでもいちゃいちゃしてるんです。彼ら的には。
管理人:銘
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