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拍手文「鰐と子供と桃鳥と」シリーズから。
現パロ気味で、鰐さんに小学生の息子がいたりします。
社員(ダズさんやロビンさんたち)は“ジュニア”呼び。
「ダズさん、聞いてくれますか」
「ええジュニア。それは良いんですがそろそろお風呂に」
「ぼくは、思う訳です」
「………」
「今日は自分の誕生日。なのに家族は仕事でなかなか帰って来ず、子供は涙をこらえながら待ちぼうけ……ああ、今年の誕生日もひとりぼっち……うんたらかんたら。
……あまりによくある、使い古されたネタです」
「そうですね」
「ですがダズさん」
「はい」
「その逆で、主役であるはずの父上が帰って来ないというのはどういうことでしょう」
「……その、お忙しい方ですから…」
「…何時になりましたか」
「…今ちょうど23時を回りました」
「そうですね、今日はあと1時間で終わる訳です」
「ええ、ですからそろそろお風呂に…」
「……(じーっ)」
………ボスどちらにおいでですか……っ!!!!
今すぐにでも電話をかけたいところだが、それはジュニアから禁じられてしまっている。
ついつい携帯に伸びてしまう腕を落ち着かせて、誤魔化すようにまた時計に目をやった。
日付は9月5日。
6日になるまで、残り55分。
手帳にもカレンダーにもこっそりと書き示されている今日のイベントは、我らがバロックワークスの社長であり、ジュニアの父親であるボスの誕生日。
1週間前から今日のために幹部数名とジュニアで計画し、普段から無表情のジュニアがさりげなくそわそわしていたのが可愛らしかった。
当日はボスとジュニアの親子水入らずにするべきだと意見が出て、俺が代表としてジュニアの傍に付くことになったは良いが……。
「父上、もうどこかで夕食は召しあがったんでしょうか」
……肝心のボスが…帰って来ない…っ!!
『こういうパーティーはサプライズに限るんじゃなぁ〜い?』というMr.2の言葉にジュニアが賛同したので、今日のことは一切ボスには知らせずに準備を進めてきた。
…まあ相手はボスなので既にばれていてもおかしくはないのだが、御自分の誕生日なんてものは忘れ去っている可能性もまた捨てきれない。
計画の決行は18時から。
そう決めて全てのセッティングを済ませたものの、朝から社に出たボスは、予定通り17時に社を出た後の行方が分からなくなってしまった。
今日は御自分で車を運転されているので、運転手に場所を確認することもできない。
ならばGPSを、と思ったが、ボスのプライベートを勝手に除くことを嫌うジュニアに、電話をかけることと一緒に禁じられてしまった。
「その、ジュニア。お気持ちは分かりますが今日はもう」
「どうせあと50分で終わるんです。もう少し」
「ですが……目が、そろそろ危ういように思うんですが」
「寝ません。大丈夫です。問題はありません」
そう言っている間にも閉じかける目蓋を押し上げて、ぐっと背筋を伸ばしたジュニアは限界も間近なのは明らか。
いつもより少しばかり饒舌になっているのもその証拠で、襲い来る睡魔に、さっきから微妙に顔をしかめてもいる。
感情をなかなか表情に出さないジュニアからすると貴重なシーンだが、それを微笑ましく思っている場合ではないのが残念だ。
「ジュニア、せめて一度連絡してみましょう」
「父上が日付が変わってからお帰りになるは珍しくはないでしょう」
「ですが…」
「ダズさん、忠犬ハチ公になりましょう。待つのみです」
「!?」
……ボス、もう本当に帰っていただかないと、ジュニアが色々と限界のようです…。
それに、忠犬ハチ公の話は結局最後は…。
そうこうしている間に針は進んで、日付が変わってしまうまであと5分を切った。
毎晩20時ごろ、ボスを待って起きている場合でも23時にはベッドに入るジュニアは、言葉も無く睡魔と闘っているようだったが、それも59分になるころに決着が付いてしまった。
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