笑ってくれる? [ 3/94 ]

「クザンさんカキ氷が食べたいです」

「アイスタイム」

「剃っ(ばっ)」

「あららら、なんで避けちゃうの。おじさんの愛情受け取って頂戴よ」

「大変に嬉しく思いますが、凍り付けは嫌なのですよ」

そんなに胸を張って言われてもねえ。
遊びに来たと思ったらこれなんだから。

CP9の補欠のチアキとの付き合いはかれこれ3年にもなる。
最初に会った時はスパンダムの背中にしがみついてて面白かったなあ。
体もちっちゃくて、足も手もちっちゃくて、なんだか闇の正義の肩書が似合わなすぎて、そこも面白かった。
そうそう、後から分かったけど、ちっちゃいのは体だけじゃなくて、頭の中身の方もだった。(ほんと残念)

「ジャブラさんの策略で、ハットリさんと2時間組手してたんです。
なので自分はとても熱いししんどいしでえらいことなのです」

「いい加減ちゃんと名前で呼んであげなさいな・・・」

「ハットリさんはハットリさんなのですよクザンさん」

これも3年前から変わらない。
チアキは何故かルッチのことを“ハットリさん”と呼ぶ。
本人曰く、きっと本体はあの男ではなく鳩の方なのだとか。
そんなんだから2時間も付き合わされちゃうんでしょうに・・・。
やっぱりこの子は頭の中身がちっちゃい。

ちょくちょく俺の元を訪れては、
『またジャブラさんが振られたのです。自分は大変に悲しく思います』
『カリファさんに髪をくくってもらいました。』
『長官は今日もコーヒーをこぼしまして、自分はしみじみと平和を実感したのです』
『ブルーノさんは素晴らしいお父さんであると思うのです』
うんぬんかんぬん。

まるで自分の感じたことを、義務であるかのように報告して帰っていく。
敬語はちゃんと使うのに、いまいち内容はゆるいことばかり。
ほんと不思議な子。
なんでCP9にいるのか分かんないくらい不思議な子。

「ダメでしょうか」

「えー、ダメって言うか何て言うかさ」

大将の自分にここまで懐く不思議な子。
他の二人に比べれば話はしやすいと思うけど、そんなに軽くていいのかね。
いや、別に俺は良いんだけどさ?
こう、遠慮とか、尊敬とか畏怖とか恐怖とか。
そんなものが微塵も感じられない目で見られると、なんだか調子くるっちゃうんだよね。

じーっと見つめてくる目は真っ黒闇。
でも冷たい黒じゃなくて、まるで炭のようなあたたかさを持った色。
何を考えてるのか、まったく読み取れない深い深い真っ暗闇。

「クザンさんクザンさん」

「ん?」

「これを差し上げるので、これで交換しましょう」

握った手を差し出すもんだから、こっちも手を出してみれば。
転がされたのは大きな飴玉。

「・・・えー」

「長官にいただいた大玉さんなのです」

貴重なものですよ、とこちらを見る目はいたって真剣。
おじさん飴玉もらってもねえ。
って言うかどんだけカキ氷食べたいのこの子は。
言っとくけど、その似合わないスーツ(大きすぎてスーツに着られている)の内ポケットにあるの、たぶん銃なんかじゃなくてシロップとかなの分かってんだから。
どうせチアキだからイチゴ味でしょ。
おじさんを舐めちゃいけません。

「さあクザンさん、せーの」

「・・・はいはい、せーの、はい」

ころん、と。
貰ってしまった飴玉と同じくらいの氷玉を手に転がしてやった。
カキ氷なんて贅沢言うんじゃありません。
どうせ俺に削らせるんでしょ?

「自分は大変に嬉しく思います」

怒るか拗ねるかするかと期待したのに、帰って来たのは感謝?の言葉。
この子は感情をほとんど顔に出さない。
笑った顔も泣いた顔もまだ見たことが無い。

「クザンさんは優しいのです」

「はいはい、そうだね感謝して頂戴」

氷玉を口に入れ、ころころと転がしているのか、右の頬がぱんぱんに膨れている。
それでも無表情なものだから、可笑しくて可笑しくて。
ああ、この感情がこの子にも伝染すれば良いのに。
頬が緩んでしまう自分のように、この子も微笑んでしまえば良いのに。

想像すれば、それはなんて愉快な。

「自分はこれでおいとましましょう」

「バイバイ、気ぃ付けてね」

「クザンさん、明日も来ます」

この子の日々の報告に付き合って3年、こんなことは初めて言われた。
そうか、明日も来るのか。
そうかそうか。
なら貰ったやつより美味しくて大きくてたくさんの飴玉でも用意してあげようかね。
今日みたいに取り替えっこしようや。


飴玉いくつで笑ってくれる?


「只今帰りました」
「・・・また大将の所か」
「ただいまなのですハットリさん」
「ルッチだばかやろう」
「あいつは変わらんのう!」
「でも大将の所へ行った後はいつもご機嫌よ」
「いつもの無表情にしか見えんが」
「ふふふ」


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