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「ようこそサー。お久しぶりです」

「クハハハ、くたばってなかったかチアキ」

「さあ小指を出して…あ、サーにかけた訳ではなく」

「相変わらずネジは足りてねえな」

政府からの招集に応じた俺をいつも通り出迎えたのは、まだ20にも満たないような小僧。
黒いスーツは1サイズ以上大きいようで、微妙な丈と袖が笑える。
聖地に常駐するチアキは、将校どころか雑用でさえない、なんとも不思議な役職だった。

聖地における王下七武海の監視・監督人

最初に聞いた時は笑う気さえ起らなかった。
俺たちにお目付け役!!
しかもそれはCP候補として訓練を受けたものの、まだまだ世を知らないガキが1人。
聖地での俺たちの行動を監視し、反逆と見なされるような行動・思考を確認すれば、即座に上へ報告。なんと緊急を有すると判断すればバスターコール発動の権限まであると聞く。

「縁結び完了です。ではお仕事頑張って下さい」

「はっ、どうせ監視してるんだろ?堂々と、仕事しやがれ!くらいは言ってみせろ」

「ぶっちゃけ、監視してるつもりはあんまり無いんですよ、ぼく」

「お偉いさん方に言ってやろうか」

「バスターコール発動しちゃいますよ」

チアキに指示されて小指を出せば、そこに糸が幾重にも絡みつき、次の瞬間には見えなくなってしまう。
これがチアキの能力、縁結び。
この能力こそがチアキのような小僧がこの役職を1人で勤める理由だ。
ワノクニの文化が元になった能力らしく、他者の小指と己の指に糸を結ぶことで縁を作る。
その縁によって、糸に繋がれた対象はチアキの監視下に置かれることになる。
能力者の設定した行動(例えば殺人や反逆思想・七武海間での揉め事等)をすれば糸は変色し、即座にチアキに知らされるそうだ。
俺たちは聖地を訪れる度に糸を結ばれ、こいつの緩すぎる監視を受けている。
気色の悪い能力だが、俺たちを持てあます政府側にとっては最適な首輪だったのだろう。

「おい、てめえなんで9本も結んでんだ」

「え、あーこれはですねー?」

チアキの両手の指には、まるで指輪のように糸が巻かれている。
指1本につき人間1人と縁を結んだ証であり、この糸の変化で対象を見張っている。

今チアキの10本の指のうち、糸があるのは9本。
そのうちの7本は俺たちとしても、2本多い。

「こっちはクザンさんでしょー、それでこっちがガープさん」

「……脱走防止か」

「そうなんですよ。またこの人たち2日に1度は…って言ってる傍から」

結ばれた9本の内の1本、右手の親指の糸が海のような青に染まる。
ひどく嫌そうな顔をしたチアキは、電伝虫を取り出した。

「センゴク様、クザンさんに反応アリ。居場所は例の自転車置き場でしょう」

『またかああ!まだ糸は切るなよ!あいつを捕まえるまでは繋いだままにしておけ』

「了解です」

嫌そうな顔は変えず、声だけを事務的なものにしていたチアキの眉間にはしわ。
能天気な性格のガキらしからぬそれに、こちらも顔をしかめてしまった。

「脱走するバカのお守り役なんて、腐るほど役人がいるだろうが」

「あなたたちと同様に手のかかる人たちですから。ぼくの能力で見張ってるのが1番効率も良いんですよ」

「その小さい手に随分と重いもん握ってるじゃねえか」

「でしょう?七武海に大将に英雄ですよ!
とんでもない手綱を握らされたもんです」

ああ重い重い、と笑いながら手をぶらつかせるチアキに葉巻の煙を吐きかければ、わあわあと騒いで慌てだす。
予想通りのガキくさい反応に満足しつつ、また至近距離で煙を浴びせてやった。

「ごは!副流煙って知ってますかサー!」

「俺のお下がりの空気を吸わせてやってんだ。感謝して肺を汚しやがれ」

「なんという俺様。これも反逆罪になりませんかね?」

「クハハハハ!」

「あ、待ってくださいこれは…」

なにやら、またさっきのような嫌そうな顔をするチアキの手を覗き込むと、今度は左手の中指の糸が灰色に染まっていた。
誰だ?と聞くと、ドンキホーテですよ…と電伝虫をいじりながら返される。


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