せんせーあのね [ 23/94 ]

「せんせー、ローくんがいじめるー!」

「こらトラファルガー、チアキの髪を引っ張るんじゃない」

「うるせードレーク屋、黙ってユースタス屋のおむつでも変えてろ」

「おいコラ誰がおむつしてるって?」

ぶっころすぞ!とクッションから立ち上がるユースタスに、トラファルガーもにやりと笑って中指を立てる。
ああもう、午前中にも元気いっぱいに喧嘩したばかりだろう!

俺が保育士を勤めるシャボンディ幼稚園のはしっこ、恐竜さんクラス。
クラスにはそれぞれに動物の名前を付けるのだが、なぜか恐竜。いや子供受けする動物だが、他はうさぎやねこなのに対して、なぜ恐竜。
園長のレイリーさんいわく、このクラスの子供は恐竜と思って接した方が良いからだそうだ。

最初は、ずいぶんと元気な子供たちを集めたんだなあと思っていた。
だが今では、恐竜では役不足だとさえ思うようになった。
奴ら(チアキのような大人しい例外もいるが)は仔恐竜の姿をした悪魔なのだ。

「武人屋が言ってたぜ。お前は4つになってもおむつしてるってな」

「するか!てめえこそ取り巻きの奴らがいねえと何もできねえんだろ?」

「いたい、いたいー」

「てめえトラファルガー、さっきからチアキに何してんだ!」

「黙ってろ。チアキは花嫁修業するんだよ」

「はあ!?」

「これからおままごとで料理の練習だ。だからこの長い毛をどうにかしろ」

ふん!とチアキの綺麗な黒髪をいじるトラファルガーの小さな手には一本のリボン。
どうやらいじわるをしたかった訳ではなく、髪をくくってやりたかったようだ。

まあ上手くいかないらしく、さっきからチアキは痛がってにゃあにゃあと逃げたがっているのだが。

「…トラファルガー、チアキは痛がってるだろう?」

「ふん…ペンギン!」

「アイアイ。シャチ、そっち持ってろ」

「あいよー」

さすがにストップをかけると、俺にも中指を立てて威嚇してきた。
やめなさいとその手を握るが、ぱっと振りほどいて仲間を召喚。
たいてい一緒にいるこの3人は、制服のスモッグに可愛らしい白熊のワッペンをつけている。(大人しくしていれば可愛いらしいのになこいつらは…)

今も3人でチアキを取り囲み、トラファルガーがぼさぼさにした髪を整えている。
ペンギンとシャチの手によってあっという間にチアキの髪はまとめられ、短い尻尾のようにリボンでくくられた。

「似合うじゃねえか。ならさっさとおままごとだ」

「わたしホーキンスくんとおさんぽするんだもん」

「あいつはさっきからワラ人形作ってるだろ」

「じゃあボニーちゃんとお絵かきする」

「ジュエリー屋はクレヨン食うからってお絵かき禁止されたじゃねえか」

「じゃあせんせーとお人形さんであそぶー」

「ドレーク屋は過労でお休みだ」

「こらこらこら、勝手に人を消すな」

と言うか、幼稚園児が過労とか使うか普通。
…確かにお前たちのせいで過労一歩手前な気もするが。

やだやだー!と俺の足に駆け寄ってきたチアキを抱き上げて、ぽんぽんと背をさすってやった。
この騒がしいクラスの中では浮いてしまう程に大人しいチアキだが、毎日毎日こうやって誰かに絡まれている。
トラファルガーは特に気に入っているようで、彼女だ嫁だと無理やり手をつないだりして怖がられているようだ。
かなりの一方通行な恋だが、トラファルガーが諦める様子は微塵もないから困ったもので。

「チアキ、特別にベポを貸してやるからドレーク屋から離れろ」

どこからか取り出した、ワッペンの白熊と同じキャラクターのベポのぬいぐるみを掲げて見せるトラファルガー。
チアキはちらりとそれを見るが、ぷいっと俺に向き直ってしまった。

「ベポは好きだけど、ローくんこあい」

「おい聞いたかユースタス屋、今のが萌えってやつだ」

「はあ!?何だか知らねえけど、てめえのせいでチアキが怖がってんだろうがよ」

「甘いな。あれはツンだ」

「てめえさっきから何語しゃべってんだ」

本当にトラファルガーの家はどうなってるんだ。
萌えって。ツンって。
普段からやたらと放送禁止用語を使ったりしているが、家でもああなのだろうか。
トラファルガーのことだから、誰にも教えられなくても、自分で知識を取り込んでいそうで本気で怖い。
頭は良い子供だが、どうにも方向性がおかしい。激しく残念だ。

「おいドレーク屋、さっさとチアキを下ろせ」

「やー、ローくんこあいもん。せんせーと遊ぶもん」

「チアキ、俺が遊んでやるからこっち来い」

「キッドくんもこあいもんー」

「!!!」

「わたしね、優しいからせんせーが一番すきー」

「え」

そう言ってぎゅーっとエプロンを握ってくれるのはとても可愛いし嬉しいのだが(断じてそういう趣味は無いが)、幼稚園児とは思えないこの痛い視線をどうしよう。
気が付けば視線の数は増えて、さっきまで夢中で遊んでいたはずの子供達まで俺を睨んでいた。
…これは、もう四面楚歌どころの話じゃ済まないような…。



せんせーあのね、みんなのめがこあいです



「チアキ、何してんだー?」
「るひーくん、わたし仲間はずれ…」
「せんせーとみんなでプロレスごっこか!おれもやるー!」
「お前らブロックで叩くなクレヨンもやめろ…!」
「ペンギン、園長にドレーク屋がロリコンに目覚めたって言ってこい」
「待て待て待て待て」


あとがき

超新星な方々で幼稚園パロ。
俺様キッドくんとハイパー俺様なローくん。そして過労寸前ドレーク先生。
遠足なんて行った日には、バスから降りた瞬間に勝手にどこかに消えるんでしょうね。恐ろしい子たち!
管理人:銘


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