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うと、うと。
ああ気持ち良いなあ、寝てしまおうかなあ。

時間は昼を少し過ぎた頃。
お腹はさっき食べた昼食のおかげで程良く満たされ、天窓から入る日がちょうど俺に優しく当たっている。

これだけ聞けば、どこの家庭にも見られるような平和な風景だと思う。
ただ、俺のいる場所は普通の家庭には無いものだ。
俺がいるのは、銭湯の番台。

俺の家は“大海の湯”という、まあまあ名も売れている銭湯を代々営んでいる。
俺もその手伝いで、男湯の番頭として営業中はこの番台の中でぼうっと脱衣所を眺めている。
営業時間は朝早くと夕方から深夜まで。
なので昼過ぎの今は閉まっているわけだが、小さいころから座っているこの場所は、俺にとってはトイレ並みに落ち着く場所になっている。
だからヒマな時はよくこうやって本を読んだり勘定帳を整理したりして時間を過ごしていた。

思春期の男が1人でぼんやりしてるなって?
まあたしかにその通りだから反論できないんだけれども。

俺の住むこの島はたいして大きくも無く、目立った観光地があるわけでもない。
島民も比例した数で、子供も多くない。
自然と友達の少ない俺だけど、構ってくれる、と言うか構い倒してくれる人たちならいる。

あれはいつだったかなあ、もう1年経つのかな、まだだったかな。

「邪魔する」

そう言って音も無く入って来たミホークさんには本当に驚かされたものだ。
気配が無かった。本当にいきなり現れたと錯覚するほどに。
早朝の1番乗りでやって来たその人は、大きな黒刀を壁に立てかけ、番台で驚きで呆けていた俺に見ているように言いつけて浴場へと消えて行った。
出てきた彼に、恐る恐る牛乳を勧めた俺は勇者だった。
始終ぶるぶると震えていた俺だったけど、鷹の目のような鋭い目でこっちを見ながら、フルーツ牛乳を、と頼まれてからは震えはどこかへ飛んで行った。

たしかその日の夕方、これまた1番乗りでクロコダイルさんがやって来たんだ。
なんであなたの様な方がここに来るんですか!と言いたくなるような彼の姿に、やっぱり俺は番台でぶるぶる震えていた。
庶民にも上物と分かる艶めいたコートに、顔を真一文字に走る傷跡、口には葉巻。
極め付けは、その左手に輝く黄金色の鉤爪。(しかも札束を出された。あれは困った)
ミホークさんと同様に、彼も取り外した鉤爪を見ているようにと俺に言い付けて行った。
彼にも牛乳を勧めてみたら、ものすごく嫌そうな顔でコーヒー牛乳を選ばれた。
そんなに嫌なら飲まなくても…と思っていたら、一口飲んだ彼が目を見開いていっきに飲み干したのを見て、震えは溶けて消えた。

そしてクロコダイルさんが帰った後、深夜に店を閉める直前。
ドフラミンゴさんが来襲した。
初めてのお客さんが1日に3人来るなんてことは稀で、しかも3人共とても島の住人とは思えないような人たち。
特にドフラミンゴさんは凄かった。
3mを越える体を折り曲げてのれんをくぐり、にいいっと怪しく笑って小銭を放られて、もちろん俺はぶるぶる震えていた。
あのド派手な羽コートも印象的すぎて、ぽいっと脱ぎ捨てられたそれをじっと睨んでいたんだっけ。
俺が言い出す前にイチゴ牛乳を2本頼まれ、1本を飲み干した後に、もう1本を番台にこつんと乗せられた。ガキはもう寝る時間だぜ?と頭を撫でられて、震えは弾けて消えた。

その後に、昔から常連さんのガープさんやセンゴクさんに教わって彼らが王下七武海だと知り、番台から転げ落ちたのは良い思い出だ。
もう体は震えることはなかったけれど、その代わりに声が震えて3人全員に叱られた。
「俺は風呂に入りに来てんだ。番頭が客にびびんじゃねえ」
そう言って空の牛乳瓶で軽く小突いてくれたのはクロコダイルさんだったなあ。

最初は月に数回訪れる程度だった彼らも、少し経てば週に数回に増え、すっかり常連さんに昇進した。
そうなると3人はしっかりばったり顔を会わせたわけで、初めて3人揃った時はそれはもう恐ろしかった。
なんでお前らがここに、と言わんばかりのオーラを振りまき、なぜかやたらと番台の傍に寄って来るのだ。(顔が怖いオーラが怖い言葉が怖いなんで俺ここにいるんだろう)
牛乳も、いつもは1本なのに、まるで争うかのように飲み続けて冷蔵庫を空にされた。

「「「明日も来る」」」

さんざん口喧嘩(若干手も出た)をした後、まったく同じタイミングでそう言った彼らに笑ってしまったのは仕方の無いことだ。
それから彼らは毎朝顔を出すようになり、今もそれは変わりない。

「フフフ!チアキちゃあん、おねむかい?」

「……うわあ」

「その反応は寝起きのせいだと思って良いな?」

傷付いちまうなあ!と笑うドフラミンゴさん。
ちょ、いつの間に…。
ぐにぐにと目をこすっていると、のれん掛けなくて良いのか?と聞かれて首を傾げる。

「どうやらお寝坊したみたいだなあ、ほら」

「う、わ!もう夕方…!」

時計を示されて目を向ければ、もう店を開ける時間。
どれだけ寝たんだ俺。ほんわかしすぎだろう。

のれんのれん!と急いで外に出ると、ミホークさんとクロコダイルさんの姿。
ミホークさんに名前を呼ばれて、ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜられる。うん、これは嫌いじゃない。
のれんはクロコダイルさんに奪い取られ、ひょいっと所定の場所へ。俺は背伸びしても難しいのに、まったく羨ましい限りだ。

「なんだ、てめえらも来ちまったのかよ」

「チッ、てめえもいるのか桃鳥」

「チアキ、明日の昼は空いているか」

「え?明日ですか?」

クロコダイルさんとドフラミンゴさんの睨みあいを眺めていたら、いつもはそれに参戦するミホークさんから声をかけられた。
まあ明日も朝が過ぎれば、あとは夕方までヒマですけども。
ふむ、と懐を探ったと思ったら、差し出される紙が2枚。


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