白煙バニラ [ 12/94 ]
「大佐、アイスは良い奴でした・・・」
「・・・(ちゃりーん)」
「え、良いんですか!?」
非番を良いことに詰め所でもぐもぐと楽しんでいたアイスが、大佐の不意に上げた腕とごっつんこして地面へ。(家で一人で食べてもつまんないからね!)
べちゃん!と落ちたアイスは地面に食べられてしまい、こりゃあ雑巾持ってこなくちゃと思いながら、一応大佐にアイスの殉死報告をした。
一種の現実逃避だったけど、手に落とされたのは数枚の硬貨。
え、この金額だとハーゲン様も買えてしまうのですが!!
「まあ今のは2億歩程譲って俺のせいだ。そこ掃除してから新しいの買え」
「わーお!めちゃくちゃ譲ってもらってますね!」
ぎろりと睨まれたので、さっさと雑巾を取りに逃げ出した。
こわいこわーい!
でもやさしーい!
「たしぎさん聞いて聞いて、大佐にごっつんこしてべちゃん!してハーゲン様ゲットだぜ!」
「わあ、大佐に当たってアイスを落として、代わりを買ってもらうんですね?良かったですねチアキちゃん」
「なん・・・だと・・・!?」
解読されただと・・・!!
え、何が?と返ってくると思ってたのに、まさか完全に筋を読まれるとは。
どうしたたしぎさん、メガネが輝いてるぞ。
にこにこ笑うたしぎさんに圧倒されてしまったが、手に持った雑巾とバケツで可哀相なアイスのことを思い出した。
そうだそうだ、とりあえずあの子を片付けないと!
「よーし、ちょっと死体片付けて来ます!」
「はい、アイスの片付け頑張ってくださいね」
だからどうしちゃったのたしぎさん!
まあ分かりやすい例えではあったけど、妙に察しが良すぎて怖いですよたしぎさん!
メガネを新調したの、と笑ってますけど、メガネにそんな機能ありましたっけ!
そんなメガネ天下無双なたしぎさんと別れ、アイスを片付けて町へ繰り出した。
さっきは普通の露店で買ったけど、今度はハーゲン様が買えてしまうんだぜ!
もしくは6段行くか6段。
もはやアイスタワーになっちゃうけど、なんて贅沢な響き。
それを落とさずに食べ終えたあかつきには、きっと私はアイスクイーンのはず。
・・・あ、良いなアイスクイーン。
でもちょっとオヤジギャグっぽいか。
「おうチアキちゃん、さっきのアイスもう食っちまったのか?」
「いんや、残念ながら床に食べられた」
「え、2段だったのに落とすとかどんだけ」
うっさいな!大佐に言え大佐に!
あとどんだけとか言うな!
アイス屋のおっちゃんは良い奴だけど、なんだか可哀相なものを見る目でこっちを見てくるものだから職権乱用してしょっぴいちゃおうかと思った。
職権って言ってもただの一等兵だけどね。
しかし、今回はおっちゃんには用無し。
ポケットでは大佐からもらったハーゲン様の資金がちゃりんちゃりんと音を立てている。
ふふふ、おっちゃん悔しかったら店にハーゲン様置いてみやがれ。
今の私はコーンアイスじゃなくてカップアイスの時代なのだよ。
「じゃあね、また今度買いに来まーす」
「あれ、新しいの買わないんだ」
ふふふ、私はハーゲン様を迎えに行くんだよ。
そう言おうと思ったが、眼に入ったおっちゃんのアイス屋の料金表を見てやっぱりやめた。
・・・ふむ、こういう手もあるわけだ。
「大佐ー、ただいま戻りましうえっほげっほぉ!!」
「非番の奴の帰還報告なんていらねえよ」
うえぇっほ!煙い!!
大佐のいる指令室の扉を開けると、そこは真っ白の世界でした。
うん、もちろん煙でね。
窓を全開にして煙を追い出すと、やっと見えた大佐は精神集中して石積み中のようだった。
あれ地味に難しいよね。大佐は放っておくとどこまでも積み上げてしまうから本当にすごい。
でも天井近くまで積んで崩すのが勿体無くなってしまうのはどうだろう。
気持ちは分かるけど、じゃあ積むな。ぱっと崩せ!
大佐の眼は石に向いていて、さっきから一切こっちを見ていない。
ふふん、じゃあ好都合だ。
ぺたん
「おみやげですよ」
「・・・あ?」
そっと近付いて葉巻を取り上げ、そこに3段のアイスを押し付けた。
ちなみに反対の手には私の分の2段が。
大佐のはあんまり甘すぎないものを組み合わせたから、きっと大佐も全部食べられるよ。
「・・・お前のことだから、やたらと良いアイス買って来て自慢すると踏んでたんだがな」
どっちにしても、大佐の所に戻ってくるっていうのは分かってたんですね。
なんだよちょっと嬉しいなチクショー!
自分の分の2段を食べながら、ニヤニヤして大佐の向かいに座った。
大佐の口に押し付けたままだったアイスを手に持たせて、なんだか似合わない組み合わせにまたニヤニヤしてしまう。
白猟が葉巻じゃなくて3段アイス持ってるとか、どんな貴重映像!
ふふふ、アイスも美味いし目の前の光景も美味いし、なんて贅沢な非番!
「3段もいらねえ、お前食えよ」
「えええええ、人の好意は受け取りましょうよ」
「まず俺の金だがな」
「いやまあそうですけどね!」
がららららら!!
「これだけで十分だ」
せっかく積み上げた石を崩してこちらに乗り出した大佐は、私の手のアイスをがぶり。
・・・ちょ、それ私が食べてたやつ。
食べかけの2段だったアイスは1段になり、私の手には手付かずの3段アイスが押し付けられた。
べろりと口元を舐めてまた葉巻をくわえてしまう大佐に、溶けてるぞバカと声をかけられるまで、不覚にも私は固まったままだった。
白煙を溶かし込んだバニラアイス「チアキちゃん顔が真っ赤ですよ?」
「・・・大佐におみやげでがぷりと行かれました」
「あ、間接チューですか」
「たしぎさあああああんっ!!」
「(甘ぇな)」
あとがき
スモーカー大佐、あなたいつの間に准将になってたんですか。ビックリしましたよ。
・・・はい、うっかりしてました!
でもローグタウンのイメージなのでそのままで!←
管理人:銘
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