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自転車の荷台に座ったハルアは、今はすやすやと寝息を立てている。
クザンの服をぎゅっと握ってはいるが、落ちやしないかとヒヤヒヤしてしまう。
ほんの一時間前は、自宅でコーヒーを淹れてくれていたこの子供、改めて思うが子供じゃない。中身が。
一ヶ月という時間を様子見に費やしたのにかかわらず、あっさり言ってしまったプロポーズ・・・ではなくお誘いの言葉は、ハルアの首をいとも簡単に縦に振らせた。
ちょっとちょっと、そんな簡単にOK出しちゃっていいのか。
そう不安になるほどハルアは自然体だった。
しかも待っててくださいと告げてどこかに行ったと思ったら、程なくして帰って来たものの、手には旅行カバン、背にはリュックサックと、完全に旅立ちスタイルである。
挨拶も済ませましたと笑うハルアは、何度も言うがやはり十歳の子供ではないだろう。
島の人々も、まるでこうなることが分かっていたかのようにハルアを送り出した。
爺さま婆さまたちに何度も抱きしめられ、大人たちからは頭を撫でまわされ、子供たちからはばしばしと背を叩かれ。
その場から攫っていく自分としてはちょっと複雑ではあったが、行きましょう、とへにゃりと笑って自分の手を取るハルアに、そんな想いは吹き飛ばされた。
きぃこきぃこと自転車を漕ぎながら、クザンはこれからのことを考えていた。
さて、どうしよっかな。
ぶっちゃけて言うと、クザンはハルアを誘った後のことはほぼノープランだった。
更にぶっちゃけると、なんだかなるようになる、ぐらいに考えていた。
いいのか海軍。
いいのか大将。
海軍の他の誰にもあの島やハルアのことは秘密にしていたので、誰かに許可を貰ったわけでもなく、ハルアを海軍に連れて行くことは完全な自己判断であった.
現時点では児童誘拐に近いような気もする、と言うかほぼその通りなのだが、本人の了承得たんだから問題無いでしょ。とクザンは頭をかいた。
「クザンさん・・・すいません、寝ちゃってました・・・」
むむ、とかあう、とか可愛く唸る姿を見たくてしょうがないが、腰につかまる姿を見ようとぐりんと身を捻れば、おそらくバランスを崩してえらいことになる。
能力者の自分はもちろんのこと、小さなハルアも、海に落ちればそりゃえらいことになる。
「ハルアちゃん、もうすぐ着くからね」
お尻とか痛くない?と聞けば、らいじょぶです、と舌足らずに返してくる。
くそう、顔が見たい。
「ハルアちゃんはさ、本部に着いたら何したい?
行きたいとことか見たいものあったら言いなね」
「ぼく・・・お仕事したいです」
あらら、欲の無いこと。
あの小さな島で生まれ育ったのだから、少しは何か要望があると思ったのだが。
まあハルアのことだから、この答えも想定内ではあったが。
「あ、でも」
「ん?」
「世界には、一日中昼だったり夜だったりする島があるって、お父さんが言ってました」
「あ〜・・・あるねえ・・・」
頭に浮かんだのは、不夜島と呼ばれるとある島。
年中太陽に照らされたその島は、なんだかこの子供に似合っているような気がしたが、
いかんせん住人達が住人達である。
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